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生徒会長はオタク男子を攻略できない  作者: naomikoryo


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119/150

第119話 「花火が上がる前に、少しだけ本音を言う」

花火が始まる少し前。


二人は会場の少し外れにある土手へ移動した。


屋台通りより人は少ないが、それでも見物客は多い。


アキラは事前に調べていた。


ここなら花火が見やすく、人混みも少しだけまし。


(予習は大事。花火大会イベントは事前準備で難易度が下がる)


ミレイは土手に座り、空を見上げた。


浴衣姿で、横に座っている。


さっきまで手をつないでいた。


今は離している。


それなのに、手の感触がまだ残っている。


(人混み対策。そう、人混み対策だった。だがミレイ先輩は『今日は否定しなくてもいい』と言った。あれはどういう意味だ。いや、意味を考えると爆発する)


沈黙が流れる。


でも、嫌な沈黙ではない。


夏の夜の空気。

川の匂い。

遠くのざわめき。

花火開始を待つ人々の声。


ミレイが小さく言う。


「黒瀬くん、今日は本当にありがとう」


アキラは少し驚く。


「こちらこそ。来てくれてありがとうございます」


「誘ってくれて、嬉しかったの」


アキラの心臓が強く鳴る。


ミレイは空を見たまま続けた。


「夏休みになって、毎日会えなくなって……少し寂しいと思っていたから」


アキラは息を止める。


ミレイが。


寂しいと。


自分と会えないことを。


言ってくれた。


アキラは言葉を探す。


ここで逃げるな。


ちゃんと言え。


「僕も、寂しかったです」


ミレイがこちらを見る。


アキラは顔が熱くなるのを感じながら、それでも続ける。


「夏休み、楽しみだったはずなのに。生徒会室に行けない日が続くと、思ったより落ち着かなくて」


ミレイの目が少し揺れる。


「そうなの?」


「はい。ミレイ先輩に会えない日があると……ログインボーナスを取り逃したみたいで」


言ってから、アキラは頭を抱えたくなる。


なぜそこでログインボーナス。


しかし、ミレイは笑わなかった。


少しだけ笑って、優しい顔をした。


「黒瀬くんらしいわ」


「すみません。もっと普通に言えばよかったです」


ミレイは首を横に振る。


「ううん。ちゃんと伝わったわ」


アキラは胸が温かくなる。


ミレイに伝わった。


それだけで、十分だった。


花火開始のアナウンスが遠くで響く。


空が一瞬静かになる。


アキラは小さく言った。


「今日、一緒に来られて、すごく嬉しいです」


今度は、ゲームの例えを使わなかった。


ミレイは少し驚いて、それから微笑んだ。


「私も。黒瀬くんと来られて、嬉しい」


その瞬間、最初の花火が上がった。


夜空に大きな光が咲く。


アキラは花火を見ているはずなのに、隣のミレイの横顔ばかり見てしまった。


(これは、もう……)


言葉にはまだできなかった。


でも、判定保留にはできない気がした。



◆オチ


花火を見ながら、ミレイが言った。


「綺麗ね」


アキラは思わず答えた。


「はい。ミレイ先輩が」


言った瞬間、時が止まった。


「……花火が、です」


ミレイは真っ赤になりながら、小さく笑った。


「今のは、訂正しなくてもよかったのに」


アキラはその場で完全に機能停止した。

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