第117話 「屋台巡りは選択肢が多すぎる」
花火大会の屋台通りは、想像以上に賑やかだった。
焼きそば。
たこ焼き。
りんご飴。
チョコバナナ。
かき氷。
金魚すくい。
射的。
くじ引き。
アキラは圧倒された。
(選択肢が多い。しかも全部期間限定。これは夏祭りガチャ会場だ)
ミレイは楽しそうに屋台を見ている。
浴衣姿で、少し首を傾げながら、どれにしようか考えている。
その横顔を見るだけで、アキラは十分すぎるほど楽しかった。
しかし、見ているだけではいけない。
今日はミレイを誘った側である。
何かしら、ちゃんと提案しなければならない。
「ミレイ先輩、何か食べたいものはありますか?」
ミレイは少し考える。
「そうね……りんご飴、久しぶりに食べたいわ」
「りんご飴ですね。了解しました。赤い宝石アイテムです」
「赤い宝石?」
「見た目が」
ミレイは笑った。
りんご飴を買う。
ミレイが小さくかじる。
その姿を、アキラは見てはいけないと思いながら見てしまう。
(浴衣ミレイ先輩がりんご飴を食べている。これは夏イベントの公式イラストか?)
ミレイがこちらを見る。
「黒瀬くんは?」
アキラは慌てる。
「僕はチョコバナナを」
「好きなの?」
「形状と味の安定感があります」
「食べ物の評価が理系ね」
チョコバナナを買う。
二人で少し歩きながら食べる。
人混みが強くなる。
アキラはミレイがはぐれないように気をつける。
しかし、屋台の前で人が押し寄せた瞬間、ミレイとの距離が離れそうになった。
アキラは反射的に言う。
「ミレイ先輩、こっちです」
そして、手を差し出した。
自分で差し出してから固まる。
(手。手を出した。これは何。誘導補助? 手つなぎ申請? 自分でも分類できない)
ミレイも手を見て固まる。
数秒。
人波が迫る。
ミレイはそっと、その手を取った。
アキラの思考が停止した。
手。
つないでいる。
ミレイの手は小さくて、少し冷たくて、でもすぐに温かくなった。
「はぐれると危ないものね」
ミレイが小さく言った。
アキラは何とか頷いた。
「はい。人混み対策です」
「ええ。人混み対策ね」
二人とも、同じ言い訳にすがっていた。
だが手は離さなかった。
◆オチ
少し歩いた後、アキラが真剣に言った。
「ミレイ先輩、手汗が気になったら言ってください」
ミレイは一瞬驚いた後、笑ってしまった。
「黒瀬くん、今それを言うの?」
「重要な衛生確認です」
ミレイは手を少しだけ握り返した。
「大丈夫よ」
アキラは完全に停止した。
屋台のおばちゃんが遠くから言った。
「青春だねえ」
今日二回目だった。




