第115話 「待ち合わせ場所に浴衣のミレイ先輩が現れた」
花火大会当日。
アキラは待ち合わせ時間の三十分前に駅前へ着いた。
早すぎる。
だが、遅れるよりはいい。
(待ち合わせ遅刻は信頼度低下イベント。早着は安全行動)
駅前はすでに人で賑わっていた。
浴衣の人。
家族連れ。
カップル。
屋台へ向かう人々。
空は夕方の色をしていて、遠くから祭りの太鼓の音が聞こえる。
アキラはスマホを確認する。
待ち合わせまで二十五分。
(早すぎた。だが待つ時間もイベントの一部。落ち着け)
落ち着けない。
服装は姉に選んでもらったものだ。
白いシャツに、濃いパンツ。
鏡では悪くなかった。
しかし今になって、急に不安になる。
(これで大丈夫か? 夏祭り装備として過不足ないか? 推しTを外した判断は正しかったのか?)
そこで、声がした。
「黒瀬くん」
アキラは振り向いた。
そして、停止した。
ミレイがいた。
浴衣だった。
淡い水色に、白い花模様。
髪はいつもより少しまとめられていて、首元がすっきり見える。
小さな巾着を持って、少し照れたようにこちらを見ている。
アキラの脳内で警報が鳴った。
(浴衣ミレイ先輩。夏限定最終装備。破壊力が想定を超えている)
ミレイが不安そうに聞く。
「変かしら」
アキラは全力で首を振った。
「いえ。変ではありません」
それだけでは足りない。
言わなければ。
ちゃんと。
「すごく……似合っています」
言えた。
直球で。
ミレイの頬が赤くなる。
「ありがとう。黒瀬くんも、その服……とても似合っているわ」
アキラは心臓を押さえそうになった。
(相互装備評価。強い)
「姉に選んでもらいました」
言ってから、アキラは少し後悔した。
自分で選んだと言えばよかったのかもしれない。
しかしミレイは笑った。
「お姉さん、センスがいいのね」
「はい。僕の装備選択画面に介入してくれました」
「装備選択画面?」
「服装選びです」
ミレイは楽しそうに笑う。
いつものミレイだった。
浴衣で、いつもよりずっと綺麗なのに、会話の受け止め方はいつものまま。
そのことに、アキラは少し安心する。
二人で祭りの会場へ歩き出す。
人混みが増えてくる。
アキラはミレイの歩幅に合わせた。
浴衣だから歩きにくいかもしれない。
「ミレイ先輩、歩く速さ、大丈夫ですか?」
ミレイは少し驚いてから、微笑む。
「ええ。ありがとう」
アキラは思う。
(今日は、ちゃんとエスコートしなければ)
エスコートという単語を自分で思い浮かべて、顔が熱くなった。
◆オチ
屋台の明かりが見えてきた頃、ミレイが言った。
「今日は、誘ってくれてありがとう」
アキラは足を止めそうになった。
「こちらこそ、来てくれてありがとうございます」
少し間を置いて、彼は言った。
「誘ってよかったです。かなり」
ミレイは赤くなって、でも嬉しそうに笑った。
アキラは思った。
(チェックリスト六番、予定より早く達成)




