第114話 「会長、浴衣を着るかどうかで悩む」
花火大会前日。
ミレイは自室で、クローゼットの前に立っていた。
明日、何を着ていくべきか。
普通の私服でもいい。
けれど花火大会といえば、浴衣。
去年までは、友人と行く時も私服が多かった。
生徒会長として夏祭りの見回りをする時も、制服だった。
でも今年は違う。
黒瀬くんと行く。
そう思った瞬間、ミレイは浴衣の箱を見つめてしまった。
母が部屋に来る。
「浴衣、着るの?」
ミレイは少し慌てる。
「まだ決めていないわ」
「相手は学校の後輩くん?」
ミレイは固まる。
「どうして」
「最近、楽しそうにスマホ見てるから」
母はにこにこしていた。
ミレイは顔を赤くする。
「黒瀬くんとは、生徒会の関係で」
「そう」
母の「そう」は、まったく信じていない「そう」だった。
浴衣は淡い水色で、白い花模様が入っている。
派手すぎず、涼しげで、母が以前選んでくれたものだった。
ミレイは少し迷った。
浴衣で行ったら、黒瀬くんはどう思うだろう。
驚くだろうか。
褒めてくれるだろうか。
それとも、いつものように「夏イベント限定装備」などと言うのだろうか。
想像したら、少し笑ってしまった。
でも、褒めてくれたら嬉しい。
そう思った。
母は言う。
「着たいなら着た方がいいわよ。夏祭りなんだから」
「でも、気合いが入りすぎていると思われないかしら」
「好きな人と花火大会に行くなら、少しくらい気合い入れていいんじゃない?」
ミレイは完全に固まった。
好きな人。
母に言われると、逃げ道がない。
「まだ、そういうわけでは」
母は優しく笑った。
「そういうわけじゃなくても、可愛くしていきたい相手なんでしょう?」
ミレイは答えられなかった。
その通りだった。
黒瀬くんに、少しでも可愛いと思ってほしい。
そう思っている。
ミレイは小さく頷いた。
「浴衣、着るわ」
母は嬉しそうに箱を開けた。
その夜、黒瀬くんからメッセージが来た。
僕も楽しみです。かなり。
かなり。
その一言が、黒瀬くんらしくて、嬉しかった。
ミレイは返信する。
私も、かなり楽しみよ。
送ってから、布団に入っても眠れなかった。
◆オチ
翌朝、リコからメッセージが来る。
浴衣ですか?
ミレイは驚いて返す。
どうしてわかるの?
リコ。
会長が花火大会で私服だけにするとは思えません。黒瀬くん倒してきてください。
ミレイは真っ赤になった。
倒しに行くわけではないわ。
リコから即返信。
結果的に倒れます。




