第113話 「花火大会前日、服装選択で詰む」
花火大会前日。
アキラは重大な問題に直面していた。
何を着ていけばいいのか。
学校なら制服という万能装備がある。
だが花火大会は私服だ。
私服。
それはアキラにとって、最も自由度が高く、最も事故率の高い装備選択画面だった。
(服装選択。ここで間違えると第一印象にデバフがかかる。いや、ミレイ先輩とはもう知り合いだが、それでも花火大会用装備として適切である必要がある)
アキラはクローゼットを開ける。
黒いTシャツ。
推し作品のロゴTシャツ。
推しキャラのシルエットTシャツ。
なぜか似たような黒いパーカー。
イベントで買った限定Tシャツ。
姉のマドカが部屋を覗く。
「うわ、黒い」
「闇属性ではない。着回し効率重視だ」
「花火大会に推しTで行く気?」
「候補には入っている」
「外しなさい」
アキラはショックを受ける。
「推しを外すとは」
「推しは心に着ていきな」
「名言っぽいが意味が重い」
結局、マドカが服装を選んでくれることになった。
白いシャツ。
濃いめのパンツ。
薄手の羽織り。
普通。
だが、普通に見えることがアキラには難しい。
鏡の前に立つと、マドカが満足そうに頷いた。
「よし。清潔感ある」
「清潔感はステータスなのか?」
「かなり重要」
「今まで僕は初期値が低かった可能性がある」
「ようやく気づいた?」
アキラは鏡を見る。
悪くない。
たぶん。
しかし問題は服装だけではなかった。
待ち合わせ。
会話。
屋台。
花火。
帰り道。
イベントが多すぎる。
アキラはノートに書き出した。
花火大会チェックリスト
一、待ち合わせに遅れない。
二、ミレイ先輩を見て固まりすぎない。
三、屋台で挙動不審にならない。
四、人混みではぐれない。
五、花火を見る。
六、ちゃんと楽しかったと言う。
六番目で手が止まる。
ちゃんと楽しかったと言う。
これは大事だと思った。
ミレイに、誘ってよかったと思ってほしい。
アキラはスマホを開く。
ミレイからメッセージが来ていた。
明日、楽しみにしているわ。
アキラはしばらく画面を見つめた。
返信する。
僕も楽しみです。かなり。
送ってから、少し照れる。
しかし消せない。
本音だった。
◆オチ
マドカが服を見ながら言う。
「明日、会長が浴衣だったら?」
アキラは完全に停止した。
「浴衣……?」
その可能性を考えていなかった。
マドカは笑った。
「はい、追加ボス出現」
アキラは椅子に座り込んだ。
「夏イベント、難易度調整が雑すぎる」




