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あるもの  作者:
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 すぐに最雲葬儀の元社長と会う約束が取れた。佑真は会議室を出ると、その足で教えられた自宅へむかった。

 チャイムを押すと、物腰の柔らかな夫婦が出迎えてくれた。男性は最雲葬儀の元社長であり重永光司(しげながこうじ)と名乗った。妻は幸恵(ゆきえ)という。

 床の間がある和室へ通されると、佑真は仏壇へ手を合わせた。花が丁寧に活けられ、ビールやスナック菓子が供えられている。年を重ねた遺影と並ぶ、青年の写真。自殺した息子だろうか。

 お参りをすませると光司は力なく口を開いた。

「電話でうかがいました。蔵の解体をしようにも、怪奇現象が多発してできないと。……やはり、息子が許してくれないのでしょうか」

 幸恵はハンカチで目元を押さえる。

「私達は事件を防げなかった。……まだ恨んでいるのかもしれないわね」

「……もしよろしけば、お話しできる範囲でかまいませんので、なにがあったのか教えていただけないでしょうか」

 佑真が意を決してたずねると、夫婦はぽつぽつと語り始めた。

 光司には二人の息子がいた。

 高齢となった光司は、最雲葬儀の次期社長を次男の(あきら)に任命した。この決定に反発をしたのが放蕩息子の長男、(まさき)だ。次男が会社の金を自由にできるのが気に入らなかったのだろう。

 柾による嫌がらせが始まった。

 取引先との予定をわざとキャンセルする、発注データを触り必要な備品が届かなくなる、社内に玲の虚偽の悪評を流す。

 あらゆるトラブルを起こしたが、そのたびに玲が上手く対処した。社内で問題ばかり起こす柾は孤立し、やがて誰も相手にしなくなった。

 しかし、最雲葬儀の見学会で事件が起きてしまう。

 人形供養のために預かった思い入れのある品を、柾は勝手に蔵へ運び去った。当時、蔵は会社の物入れとして利用されていた。

 柾は玲を蔵に呼び出し、目の前でぬいぐるみや人形を刃物でズタズタにしたそうだ。その様子を撮影しながら、玲を責めたという。

「このうさぎを見ろ! かわいそうに、いまにも泣きだしそうだぜ。ほかのぬいぐるみや人形も俺達を恨めしそうに見てやがる。こうなったのはぜーんぶ、お前のせいだ。俺の強行を止められず、お客様から預かった大切な品を傷つけられた責任は玲にある。お前は社長にふさわしくねえんだよ! 死ね! 死ね! 死ね!」

 玲は長時間罵られ、精神的におかしくなってしまったのだろう。その場で首を吊って死んだ。

 夫婦は帰宅しない玲を探し回り、蔵へむかった。鉢合わせた柾は、動画を再生したそうだ。刃物を振り回す様子から、首にロープをかけ、吊る瞬間まで、すべてが収められていた。

「俺を社長にしないからこうなるんだ! ざまあみろ!」

 柾は大笑いをしていたが、突然苦しみはじめた。そうしてそのまま亡くなった。

 佑真の背中に冷たい汗が流れる。

「お二人とも亡くなられたのですか」

「はい。長男は心臓発作、次男は自殺、事件性はなく家庭内のトラブルとして処理されました。この件は、知り合いの警察や新聞記者にお願いをして、大事にならないように伏せてもらいました。なんせ、葬儀会社の息子が二人同時に亡くなったのです。私達の心が落ち着かないまま、周りからいろいろと尋ねられるのは、耐えられませんから」

 光司は出された緑茶で唇を湿らせる。

「事件をきっかけに廃業を決めました。密葬ですがお経をしっかりあげてもらい、玲は我が家の墓へ。柾は別の寺へ永代供養に出しました。ですが、それがよくなかったのかもしれません。苦しむ玲を守ってやれず、方々へ迷惑をかけた柾は我が家から追い出す形になってしまった。蔵まで丸投げとなれば……恨まれても仕方がありません」

 夫婦は仏壇に飾られた写真をじっと見つめた。それから姿勢を正し、指先をきっちり揃えて両手を置くと、深々と頭を下げた。

「息子の魂が蔵にあるというのなら、私たちも供養に協力します。どうか一緒に参らせてください。お願いします……!」

 自殺の原因を聞いている間、佑真はまとわりつくような視線を感じなかった。供養の目処が立ち、少しでも納得してくれたのなら嬉しいが、幽霊の気持ちなど分かるはずがなかった。

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