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定例会議の日を迎えた。
長沼から聞いた話によると、社長は蔵の件について真剣に耳を傾けてくれたそうだ。特に怒ってはおらず、納得した様子だったという。
しかしなにがあるかは分からない。供養が終わるまでは油断は禁物だ。
会議室の扉が開き、軽やかな足取りで壮年の男性が入室する。社長だ。
「お疲れ様。遅くなってすまないね。会議を始めようか」
数年前に就任した二代目の経営手腕は確かであり、安定した業績を保ち続けている。いつも柔和な表情で話しかけやすいと評判だ。
その反面、笑顔で処分を下す厳しさもある。佑真は蔵の対応を指摘されるのではとおびえていたが、特になにもなく会議は終了した。
ほっとしていると、社長から声をかけられた。
「登坂さん、このまま少し良いかな」
「は、はい……」
蔵についてだろう。何か言われたら長沼をひたすら擁護しなければ。
二人きりになったところで、社長は口を開いた。
「長沼係長から報告を受けたよ。蔵の対応が追いついていないそうだね。事情を聞かせてもらえないかな」
佑真はこれまでのいきさつを話した。
事故物件の指摘、調査を依頼された経緯、蔵を所有していた葬儀会社について。佑真自身が感じている異変については、気のせいであってほしいという願いを込めて伏せた。
「話してくれてありがとう。報告と齟齬があるといけないから、確認をさせてもらったよ。そのうえで登坂さんに伝えたいことがある。そうして、ここで聞いた話は内密にして欲しい」
「かしこまりました」
「単刀直入に話すよ。蔵は事故物件だ。最雲葬儀の社員が亡くなっている」
「社員が……」
言葉の端がかすれた。空気を上手く吸い込めず、喉がひゅっと鳴る。
本当に事故物件だった。
だとしたら、幸円に指摘された黒い影や、ときおり感じる視線の正体は、もしや。
「顔色が悪いよ。事実は伏せたまま速やかに供養をしてもらうつもりでいたが、驚かせてしまったかな」
「いえ、問題はありません」
正直なところ平気ではない。
しかし社長に相談をしても解決しないだろう。まずはしっかり話を聞き、蔵を調べよう。黒い影の原因が蔵にあるのならば、幸円の供養により成仏する可能性は高い。
一刻も早く原因を探り、お経を上げてもらわなければ。
「では続きを話すよ。自殺をしたのは最雲葬儀の社長の息子だ。社長がかなり動揺してしまってね、息子が亡くなった蔵の処分ができないと相談を受けたんだ。それで知り合いのよしみで蔵を買い取り、解体だけでもと思って引き受けた。表向きは新しい式場の建設予定地としてね」
ということは、幸円が言っていた蔵の気配とは、自殺をした息子だろうか。息子の未練が蔵に残り、解体を阻んでいる……?
「失礼ながら、亡くなった原因は」
「僕から説明していいものか悩むな。よければ最雲葬儀の社長と話をするかい?」
「お願いします」
「分かった、連絡を取ろう。ほかに困っていることはないかな。必要な手配があれば行うよ」
「特にはありません。対応してくださりありがとうございます」
幽霊という非科学的な現象に対して、やけに積極的だ。葬儀会社だからだろうか。
佑真の反応をどのように受け止めたのかわからないが、社長は務めて明るく口を開いた。
「霊を信じるのは以外かい? 僕も最初は疑ったよ。しかし幸円さんは本物だよ」
本物、という言葉にぞくりとする。
見て見ぬふりをしてきた不審な気配を認めろと言われているかのようだ。
「依頼をしたのは僕だが、幸円から進捗は特になくてね。登坂さんに任せたいんだろう。頼りにしているよ」
頼りになどされていない。むしろ心配されている。
社長がスマホを耳に当てた。佑真はじっと正面を向く。
一度と認めてしまうとだめだ。やはり背後になにかいる。




