表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あるもの  作者:
4/8

4

 片付けを終えて本社へ戻ると、喫煙所でたばこを吸う長沼を見つけた。

 すぐに声をかけて蔵の経緯を説明する。仕事が落ち着いたためか、最後までしっかり耳を傾けてくれた。

「ということは、まだお経をあげてないのかよ。確認しなかった俺も悪いが……社長になんて言われるのか分からないぞ」

「要領の悪い僕が悪いんです。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」

 しおらしい態度を取ると、長沼はタバコの火を消した。長沼は反省している部下に弱い。下手に出れば協力をしてくれる可能性がある。

「事情は分かった。しかしうちの社員は蔵に出入りはしていないと思うぞ。あの土地を購入したのは数カ月前だ。前の所有者が使っていたんじゃないのか」

「誰かがこっそり使っていた可能性はありませんか?」

「なんのために使うんだよ。葬儀会社が上司の指示もなく、蔵を勝手に利用するのか? 新興住宅に葬儀会社の社用車が頻繁に停まったら、会社のイメージが悪くなるだろ」

 言われた通りだ。処分を受けるリスクを冒してまで使用するメリットがない。

 だとしたら目撃証言はなんだ?

「そうだ、雲のマーク」

 たちばな葬祭株式会社のロゴマークは橘を模している。雲ではない。

 終活相談に来た夫婦は、葬儀会社の車を見て弊社だと思い込んだのだろう。ならば別の企業が使用していた可能性がある。

 すぐに近隣の葬儀会社をスマホで検索をするが、どれも該当しない。

 となると県外の企業か。しかし、わざわざ蔵へ足を運ぶのだろうか。

 悩んでいると長沼が画面を覗き込んでくる。

「なにしてるんだ?」

「思い出したんです。蔵に出入りをしていた会社は雲のマークだと言っていました。調べればなにか分かるかもしれません」

「雲のマーク? うーん、もう少し絞って検索をしたらどうだ? 『雲のマーク 葬儀会社』とか、なんかそんな感じでさ」

 アドバイスをもとに検索結果をチェックする。

 すると「最雲葬儀」という企業が該当した。追加で検索を行う。

 結果はホームページなし、口コミ情報もなし。廃業していた。

「だめか……」

「いや、ちょっと待て」

 しっかり見せてほしいと言われ、佑真はスマホを渡す。

「なんか聞いたことがあると思ったら、М市の葬儀会社だな」

「そうなんですか? 初めて聞きました」

「家族経営の小さな会社だよ。最雲葬儀の社長と、たちばな葬祭株式会社の社長は旧知の仲らしい。廃業する前はちょくちょく交流があったらしいぞ」

「知りませんでした」

「社長の個人的な知り合いだから、知らない人も多いかもな」

「なら、仲の良さもあってあの土地を買ったんでしょうか。式場のほうではなく」

 企業の利益にならない買い物だ。社長の意図がつかめない。 

 長沼は両手を挙げてお手上げのポーズを取る。

「とりあえず、進捗は社長に報告するからな。住職の霊感や事故物件のことも含めて、さらっとな」

「信じてもらえますかね」

「聞いてはもらえると思う。生願寺を手配したのは社長だ。幽霊騒ぎは気になるのかもな。昔、式場でオバケが出るって騒ぎになったときに、その筋の人を呼んでお札を貼ってもらったことがあっただろ。あの騒動も社長の決済が下りているから、話すのは大丈夫だろ。問題は叱られないかだな」

 速やかに供養を済ませるという指示を守らず、ほったらかしにしていた。

 青い顔をする佑真の肩に、長沼は手を置いた。

「つぎの定例会議には社長が出席する予定だ。安心しろ。問題が起きたら責任を取るのが上司の役目だ。進捗を確認しなかった俺が悪い。……もしも俺になにかあったら、次の係長はお前だ。任せたぞ」

「そんな、勘弁してくださいよ」

 佑真には出世意欲がない。式場の管理責任者を任されたときにも、断り続けて上層部に呆れられたほどだ。

 なにかあれば長沼を庇う覚悟はある。係長にはなりたくない。

 長沼と別れ、本社にて仕事を済ませた。ようやく家に帰れる。

「まさか蔵の供養でこんなことになるとは。あんなところで誰が死ぬんだよ……」

 ふいに、誰かに見つめられているような気がした。

 足が止まる。気のせいではない。すぐ後ろに何者かの気配がある。しかしただそこにあるだけで動きはない。

 幸円の気味悪い言葉がよみがえる。

 ーー口のないもの、鼻のないもの、耳のないもの、右手がないもの、左足がないもの、親指と人差し指と薬指がないもの、左上腕がないもの、右ふくらはぎがないもの、上半身の皮がないもの、中身がないもの……。

 もしや、なにもないから触れられないのだろうか。

「……って、そんなわけがあるか!」

 恐怖に呑まれるな。

 佑真は意を決して振り返った。

 背後には誰もいない。街灯に照らされた夜道があるのみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ