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帰社すると佑真は係長の長沼へ報告をした。長沼は直属の上司だ。蔵の供養は長沼が担当するはずだったが、佑真に振り分けられた経緯がある。
佑真は蔵の近くにある葬儀式場の管理責任者を任されている。勤務地が近いため、ついでに対処をしてもらいたいのだろう。
丁寧に経緯を説明をするが、長沼はめんどくさそうに相槌を打つ。
「ようは住職を説得して読経をしてもらえばいいんだろ。お前がなんとかしろ。簡単な仕事でうらやましいもんだぜ」
「いや、説得というか調査が必要なんですよ」
「社長からの指示なんだ。俺は仕事が手いっぱいだから、部下に手伝ってもらうしかない。悪いな」
長沼の視線の先では制服を着たスタッフがあわただしく動いている。
ここは本社の事務だ。
パソコンと固定電話が置かれたデスクの奥にはホワイトボードが設置されている。記されているのは本日の通夜の情報だ。ざっと数えるだけで十件以上はある。
長沼は上着の内ポケットからスマホを出す。
「今日の通夜のスタッフが足りないから、連絡しなきゃならん。蔵の件を俺がやるから、代わりに休日出勤の呼び出しをしてもらっても良いんだぞ?」
「いや、むりです。僕もこれから担当の式場で通夜があります。忙しいんですよ」
「そうだ。みんな忙しいんだよ。というわけで任せたからな」
忙しいと事務も上司も殺気立つ。佑真は仕方なく式場へ向かった。
通夜を終えると、事務所にてパソコンを立ち上げる。会議資料を作成しなくては。
「ぜんぜん集中できない。……蔵の調査、どうするかな」
パートスタッフにたずねようか。式場の近くに住んでいる者もいるから、何か知っているのかもしれない。
式場の倉庫へ足を運ぶ。女性スタッフが明日の葬儀式に向けて準備を進めている。
「お疲れさま。ちょっと聞きたいことがあるんだ。十分ほど歩いたところに新興住宅があるよね。その空き地にある蔵について調べているんだけど、なにか知らないかな」
「蔵ですか? 私は詳しくはなくて。三倉さんは分かりますか?」
企業のロゴマークである橘が印刷された紙袋を手にしたまま、呼ばれた女性が振り返る。
三倉は勤続二十年のベテランのスタッフだ。地元出身のためなにか知っているかもしれない。
「蔵ねえ。建築会社の資材置き場やら、子どもの秘密基地なんて噂もあったが、ただの物置だと思うよ」
「あの蔵で誰かが亡くなったとかは」
亡くなった、と口にした瞬間、背後にひんやりとした何者かの気配を感じた。振り返るが誰もいない。気のせいだろう。
「聞いたことがないよ。この辺りにも新しい住宅が増えたけど、まだまだ田舎だからね。事件が起きたらあっという間に噂になるよ。……で、あの蔵にはなにかあるのかい?」
蔵で心霊現象の報告があり住職に弔ってもらおうと考えている、などと答えれば、あっという間に社内に噂が広まりそうだ。
内密にする必要があるため、適当にごまかす。
「蔵の跡地に式場を建てる計画があるから、ちょっと気になって」
「話は聞いている。本当に建てるつもりなんだね。正気を疑うよ。しかし……本当にそれだけなのかい?」
目を細められた。疑われている。しかしそれ以上の詮索はなかった。
三倉には重要なプロジェクトが公になるまで黙っていた過去がある。上司から口外禁止を指示された経験があるからこそ、問い詰めなかったのだろう。
「そんなに気になるのなら、見学会でも開いて地域の人に来てもらったらどうだい。そろそろ開けって事業部長から言われているの、この間見たよ」
「そうだ、見学会。忘れていた……!」
見学会は地元の人に足を運んでもらうイベントだ。顧客獲得だけでなく、地域との交流をかねている。
イベントの内容はプロのカメラマンによる遺影写真の前撮り、処分に困るぬいぐるみなどを預かる人形供養、終活相談などが主だ。ときには抽選会やフリーマーケットなどを行い、気軽に足を運んでもらえるように工夫をする。
蔵の件で頭がいっぱいだったが、企画をしないと部長の雷が落ちる。佑真はすぐに事務所へ戻ると、会議資料を片付け見学会の準備にとりかかった。




