第96話 商人と工場の町
「なんか変わった町だな。想像してたのと何か違う……。」
ゆっくりとした足取りで気長な気持ちで旅を続けてきたが、ようやく自由交易都市ヴェスパへやってきた。聞いた話によると商人や職人が中心になって自治組織を立ち上げて発展してきた珍しい町であるらしい。
そんな風潮が町の作りにも影響を与えているらしく、店も多いし、間に工場らしき場所も点在している。外から入ってきた物を売るだけじゃなくて、現地で作って送り出す事もしているのだろう。そういう意味では世界最先端が集まる町と言えるのかもしれない。事情に詳しいイツキが俺に説明をしてくれた。
「そりゃ、職人の工場を見た事がないからだろう? この町にある工場はそんじょそこらの工場とは違うんだぜ。最新鋭の設備が揃っているから他とは違うと思えるんだ。」
「なるほどああいう機材を使って精密な義手とかゴーレムのパーツが作られているんだな。」
ちょっと工場の軒先を覗いてみても、ハンマーとかの工具やらがあるのはわかるが、それ以上に目を引くのが大型のカラクリじみた設備だ。巨大な金属製のベッドのような台に独楽の様な回転するカラクリが寝そべるように設置されている器具がある。その前に職人が立ち、ハンドルを回して独楽を回転させた上でノミのような工具を押し当てている。
「アレは一体何をしているんだ?」
「あの機械は”旋盤”って言ってな、ああやって回転させながら削って穴を開けたり、円筒の形を作ったりするんだよ。」
説明を聞いてから注意深く見てみると、回転と共に細かい金属片が飛んでいるのがわかった。金属を削るような作業をしているのだとわかる。確かに回転させながら削れば均一に削れるな。普通にやると形が歪になるので仕上がりも悪くなってしまうだろう。よう分からんが設備までもが全てカラクリで成り立っているようだ。
「あっちにドンドンさせて地響きを起こしてるカラクリがあるでヤンしゅう!」
「ん? アレは”プレス”だな。型に強い力で押し付けてハンコみたいに加工する機械だ。間違っても動いてる時に手を出すんじゃないぞ? 手が一瞬でぺっしゃんこになるからな。」
「しょげーっ!? 怖いでヤンしゅう!?」
なんかさっきから細かい地響きみたいなのを感じると思ったら、機械の仕業であるらしい。カラクリが重々しく上下運動して叩き付けるような動作をしながら次々と部品をはじき出している。アレも物を作るための機械であるようだ。しかもこっちは人が操作する事なく稼働している様子だった。
アレはほぼ物を作る為に特化したゴーレムみたいなもんだろう。ていうかアレの巨大版がダンジョンのトラップとして設置してあるのを見たことがあるような気がする。天井が落ちてくる系の……。技術が意外な所で流用されているのかもしれない。
「見たか? この小さな工場がそれぞれ部品を分担製作して義手やゴーレムを作り上げてるんだぜ? 個々に品質、効率を競い合っているから最先端の技術で先鋭化されていくって訳だ。魔術だけに頼っている他の都市に比べて技術が発展しているのはこういう環境に支えられているからなんだよ。」
「なんで、イツキってこんなにココの事に詳しいんだろ?」
「それはイツキが昔、ココで働いていたことがあるからだヨ。故郷みたいなもんなんだ。」
「そうだったのか。なるほど。」
センベイが俺にこっそり耳打ちして教えてくれた。やけに詳しいと思ったら、ここの出身であったようだ。決して自分からはそういう話をしない所が性格に出ているのがよくわかる。自分の過去は照れくさくて何も話したがらないタイプだ。でも、色々と説明したがるのだから、ココのことは誇りに思っているのだろう。
「いらっしゃい、いらっしゃい! これが世界最先端の技術を使った新しいお菓子、”アイスクリン”だよー!!」
物の珍しさに度々足を止めて工場を覗きながら歩いていたら、なにか元気そうな声の呼び込みの声が聞こえてきた。何か色とりどりな果物を象った看板を付けた屋台でお菓子を売っているようだ。観光客のみならず、行き交う商人や職人達も足を止めて見入っている様だった。
その店先にいたのはタニシによく似た茶色の毛並みを持つ小柄なコボルトだった。大きめの都市とかの料理店の女性店員のような可愛らしい服を着ているし、声の主もあの人のようだからコボルトの女性だろう。
「……!? はわわわ!?」
店の呼び込みに見とれていたら、何やらタニシの様子がおかしい。急に挙動不審な感じになり、辺りをキョロキョロと見回していた。凄い焦ったような様子でもあるので、なにか緊急事態でも発生したのだろう。多分、おしっことかう〇こが漏れそうとかそういう理由に違いない。しょうがない、助け船を出してやろう。
「どうした、タニシ? トイレに行きたくなったのか?」
「わ、わはっ? 違うでヤンス! ヤンスけど、急に用事を思い出したでヤンス! ぴゅーっ!!」
「ぴゅーっ?」
「またタニシ君、擬音を自分で言ってる!」
助けてやろうと思ったのだが、俺の好意とは裏腹にタニシは猛ダッシュで俺達の元から走り去ってしまった。何があったのか? キョウナから擬音が口から出ているというツッコミも無視して去ってしまったのだ。基本、アイツはこの娘の言うことを無視はしないはずなのだが、らしくない態度で意味不明な逃走をしてしまったのだ。一体、何故?




