第93話 フォー・ナイン改め、ウィンダム
「ウム。その調子だ。その姿勢を保つのだぞ。」
「は、はい! がんばります!」
今は自由交易都市ヴェスパへと向かう旅の途中。というか、俺達は今、緩ーく逃亡生活を送っている。聖都からはなれたので追跡の魔の手に怯える必要がなくなり、ゆっくりと旅をする余裕が出てきたのだ。だから、こうやって……目の前でフォー・ナインがヘイフゥに稽古を付けてもらうことも出来るようになった。要するにフォー・ナインもそこまで回復してきたのだ。
「目覚めて動ける様になった途端、トレーニングなんて精が出るねぇ。」
「いやいや、これはある意味リハビリみたいなもんだよ。身体を動かせばある程度記憶もよみがえってくるんじゃないかって発想だよ。」
「リハビリとはいえ、アイツはアンタらの流派に弟子入りしたことになるのかい?」
「う~ん? どうなんだろう? アイツがその気ならそれも有り得るかな?」
タンブルが稽古の風景を見て感心している。アイツの目が覚めてからわかってきた事がある。実は……本名らしきものも判明している。その名も”ウィンダム・ストームメイカー”。なんか唐突にその名前みたいなのを口走り始めたのだ。名前っぽかったので、一応本名ということにする流れになった。本人は自分の名前、とすら言ってないけどな!
「それで、アンタじゃなくて、あのキツネ面に稽古を付けてもらうのってアリなのか? 勇者として仲間の育成とかしなくても?」
「持ってる武器が一応、槍?みたいな武器だから俺よりは良いだろうって話になった。俺は基本的に剣以外の武器はまともに扱えないしな。」
魔王が勇者の事を案じているっていうのも何か不思議な話だが、俺は剣しか使えないのでしょうがない。アレがとんでもない力を発揮するというのはわかったが、あくまで切り札。使ったら体力を消耗するようだし、普段使いするのなら、槍としての使用を考えないといけない。
本人もそれは心得ていたようで、部分的にしか思い出せないがアレを使った格闘戦もこなせるようだ。それに流派梁山泊の動きを取り入れ、戦士としての死角を無くすという名目で始めたのだ。弟子への教育という意味でもヘイフゥにはれっきとした実績があるので適役なのは間違いない。俺は弟子の育成に失敗したから、その方がいいのだ。
「でさ? アイツの正体ってどう思う?」
「どう思う、ったって、どうも思えないけどな? わからないことが多すぎて……。」
アイツの正体についての考察が始まってしまった。確かにアイツが何か事を起こす度に正体への関心が高まるのは仕方のない事だが、あまりにもわからないことが多すぎる。持っている武器も意味不明だし、使った技の流派とかも不明だ。それどころか本人の体質もよくわからない。
”9999”なんて数字のタトゥーが彫られていたし、武器を渡した途端、記憶が戻り始めたりといった具合である。何か特殊な環境にいたのは間違いないが、該当する様な場所なんて存在しない。何もかもがわからないのだ。
「例えば、あのオードリーを倒した技。オレはアレを見て、魔王の一撃に似ている、と思った。」
「あの意味不明な爆発を起こした一撃が? アレはお前らに近い力なのか?」
「なんか見てたら破壊的な衝動が乗っているのを感じた。衝動とか感情をパワーに変換するってのは凄い似てると思う。」
「魔王の一撃ってそういう技なのか……。」
アレがそういう物だというのを初めて知った。というか、魔族以外でこの事実を知っているのはほとんどいないだろう。そうそう魔王の内部事情を聞ける機会なんてないはずだからな。歴代でここまで魔王と親密な関係になった勇者なんていないだろうな。ついでに犯罪者になった勇者もいないはず……。俺だけだよ、多分、ここまで敵対する側に接近した人間は。
「それにあの武器……。アレはオレの狩人の破砕槌と同質な物のように感じた。」
「要するにそれって……?」
「アレも”デーモン・コア”に相当する物なんじゃないかなぁ? そうじゃなくても、同じ役割をする物として作られてるんじゃないか、って思うんだよ。」
アレが”コア”に相当するだって? 俺も不確実だがそんな印象を持っていた。その印象は正しかったことが今、証明されたんじゃないだろうか? アレは”デーモン・コア”じゃないが、それに近いモノ……それってフェルディナンドが研究していたという”スカーレット・コア”と同じなんじゃないか?
闇の属性を持たない”コア”は人の手で作り出せるってのはヤツが研究で証明していたのだ。それと同じやり方で作った? でも、誰が? 何のために? 謎が更に深まったじゃないか……。
「”賢者の石”の話は知ってるだろ? フェルディナンドが研究していたモノの正体はそれだ。」
「スカーレット・コアじゃないのか? そっちは抽象的な意味で使われていた名前なんじゃ……?」
「違うね。元々は”賢者の石”と呼ばれていたんだよ。その呼び方は”ある連中”が使っていた事で有名なんだ。」
「”ある連中”って……どこの誰よ?」
「それが……錬金術師なんだ。」
「な、なんだってーっ!?」
”賢者の石”という言葉の由来がそんなところにあったなんて! 賢者って言うから、魔術師達がオサレな名前を付けただけだなんて思ってましたよ! しかも、今向かっている場所はそいつらと関わりのある都市だ。そういうことか。全てが繋がってきた。そこへ行く理由の一つがアイツの武器を調べてもらう事だったんだ……。




