第89話 フラワーロードを渡れ!!
「……ない。」
「今……何か……?」
みんなが花で作られた脱出路、通称”フラワーロード”を次々と渡っていく。俺やその他3名は再び殿を務めるために最後に残ろうとしていた。そんな中で恐ろしい気配を感じた。その気配と共に何か、かすれる様な声が聞こえたような気がする。この声の主はどこかで聞いたことがあるような気もしたが、あり得るはずはない。アイツは死んだはず!
「どうかしたのか? 勇者?」
「ん? ああ、いや、なんでもない。多分気のせいだと思う。お前は先に行ってくれていいぜ。お前はクロガネ団のリーダーなんだし。」
「じゃあ、遠慮なく先に行かせてもらうよ。」
イツキを最後にクロガネ団のメンバーは全て橋を渡るに至った。でも、タンブルは俺たち部外者と共に残っていたので気を遣って先に行かせることにした。すんなり受け入れてくれてよかった。彼には無理をさせるわけにはいかないのだ。戦闘力が高いとはいえ、見るからに弱っているので、気の毒に感じていたというのもある。
「ヘイフゥ、フォー・ナイン、二人も先に行ってくれ。俺が最後に残る。」
「何を言う。私はお前を助けに来たのだ。何かあってはエレオノーラに見せる顔がない。」
「そんなこと言わずに! 先に!」
「ここはオイラが残るべきなんじゃないか?」
「……!?」
誰を最後に残すべきか論争している時に、聞きなれない一人称が耳に飛び込んできた。とはいえ、このメンバーであり得るとしたらフォー・ナイン以外にあり得ない。間違いなく、この男が発した言葉だろう。コイツが? 今まで片言だったというのに口調すら変化している。でも、声はおんなじだから、聞き間違いのはずがないのだ。
「お前? しゃべったのか? 残るって?」
「ああ。オイラだよ。ここで死んでも誰も悲しまないのはオイラだけだろう?」
「なんだよ、いきなり饒舌になりやがって! 記憶喪失、名無しのゴンベに心配される筋合いはないよ!」
急にまともになってきたフォー・ナインは殿すら務める、自分を心配する人間はいないなんて言いやがった! ついさっきまで、今日を迎えるまでは何も話せず、牢屋の片隅で呻き声を上げながら震えていたような男が……。いきなり勇猛果敢な一面を見せ始めたのが信じられなかった。記憶が戻りつつあるのはわかるが病み上がりもいいとこだ。無理をさせるわけにはいかない。
「でも、怪我してるじゃないか?」
「俺だって……まだ……うっ!?」
まだ動ける、まだ戦えると証明しようとして力んで構えをとろうとした。しかし体は言うことを聞かず、視界がぼやけ足がぐらついて倒れそうになった。それを見たヘイフゥが俺の体を支えて倒れるのを防いだ。どうやら思ったよりも体にダメージが残っているらしい。一人でたてないんなら、戦うことすら出来ない。情けないもんだ……。
「アンタはずっと怪我をしたままだ。傷を再生できるかもしれないけど、失った血は? 本当なら死んでてもおかしくないくらい、血を失ってるんじゃないかな?」
「彼の言う通りだ。立ちくらみしたのがその証拠だ。お前は血を失いすぎている。先に行くんだ。」
「ハハッ……言ってくれるじゃないか。ペラペラとよくしゃべる様になった……。」
「キツネさん、ロアを支えて橋を渡ってくれないか? 一人で行かせると橋から落ちてしまうかもしれない。」
「そうさせてもらう。殿は君に任せるとしよう。」
俺はヘイフゥに肩を貸してもらう形で橋を渡ることになった。誰が残るか論争になると思っていたのに、消去法で俺が真っ先に外れてしまうとは思わなかったな……。俺に巻き込まれる形でヘイフゥまで……。
確かに俺を支えるのには適役だと思うが、その気配りの的確さはある意味、策士のようでもあった。本当にさっきまで記憶喪失だった人間のすることなのだろうか? ますます謎めいた存在に思えてきたぞ。
「逃がさないィィっ!!!!」
「何!?」
「この声はもしや……!?」
「やはり、アンタは生きてたんだな!」
俺に追いすがろうとする恐ろしい声! 振り向けば、上半身だけになりながらも体から生やした棘でゆっくりとこちらに向かってきているのが見えた! バ・ゴーンだ! オードリーはまだ生きていたんだ! 崩れ去る異空間と共に、ブレンダンが命をかけて食い止めていたはずなのに、アイツが地獄の底から戻ってきたのだ!
「なんでだよ! ブレンダンが命をかけて俺たちを救ってくれたっていうのに!」
「残念だったわね! あの木偶の坊は異空間と共に消え去ったのだわ! ワタクシは命からがら転移魔術を使って助かったのよ!」
「アイツの拘束から逃れられるはずがないじゃないかぁ!」
「馬鹿ねぇ。あの男のことを買い被りすぎなのよ。どんな人間であろうと、猛毒には耐えられない。あの男も最後に毒で力尽きたのよ! 命がつきたからこそ、その拘束を振りほどくことが出来たのです!」
アイツは……ブレンダンは、最後に力尽きたのか……。あれだけ、命をかけて拘束してくれていたのに、その行為を無駄にしてくれた。決して許すわけにはいかない! アイツだけは倒さないと……いけないのに、からだの自由が効かない。
這ってでも向かいたかったが、あのオードリーの前に立ちはだかる男の姿があった。フォー・ナインが自らの武器の切っ先をヤツに向けて仁王立ちしていた。




