第88話 バンジー? エアー橋? んなこたぁない?
「ヨシ! みんな、ワープ出来たな?」
「お、おうよ! なんとかな!」
転送門を抜ける前に押し寄せる衛兵に対処する必要はあったものの、なんとか全員移動して来れた。魔王に槍覇、勇者が揃っていたので、時間稼ぎくらいなんてことはなかった。それに以外と記憶喪失なフォー・ナインがそれなりの活躍をしてくれた、というのもある。
「お前、以外とやるんだな?」
「戦いのやり方、体が覚えてる。」
「何か思い出したか? 自分の名前とか、目的とか?」
「……思い出せない。」
ある程度しゃべれるようになってきたので、記憶がよみがえったのでは、と思い聞いてみた。しかし、まだ肝心な事を思い出せないようだ。まだ、しゃべり方も片言な感じはするので、本調子ではないのだろう。無理はさせずに逃げおおせてからゆっくりと記憶を取り戻させるしかないか。
「フム、流石に逃がすまいと橋を使用できない状態にしていたか……。私が来たときはまだ下りていたのだがな。」
来るときは密閉された馬車の中にいたため、どういう地形なのかは見れなかった。そして今、転送先の地形を初めて見て驚いた! この場所はなんと陸の孤島の様な場所に建っていたのだ! 敷地の外壁のすぐ側が崖になっている。
ここは深い谷の真っ只中にある岩山のような場所だったのだ。外の世界に出るには橋を渡らないと行けないようだが、機械式の跳ね橋になっているようで、それは今、上に上がったままになっているのだ! これじゃ脱出できないではないか!
「脱走対策も兼ねてこんな辺鄙な所に建てやがったんだな! 囚人に外を見させない様にしていたのはこれがあったからなのか!」
ヘイフゥが来た時は橋が使えたようだ。おそらくクロガネ団が来たときもそうだったんだろう。必要に応じて開閉する仕組みになっているらしい。まるで堅牢な城塞の門みたいな感じだな。
オマケにここは周りが深い谷になってるから余計に難所となっているのだ。ここは守るにも適した作りになっている。囚人を救うために軍団単位で攻めてくる者に対抗するためでもあるんだろうな。
「ここはまだ収容所の敷地内だろ? ここからどうやって脱出するんだ?」
「何も対策してないと思っているのか? 俺たちはそれくらい想定済みだ。キョウナ、次はアレを出すんだ。」
「はーい! それでは行くよ? そーれ、そーれ!!」
イツキの指示で再びキョウナが動き出した。小さな袋を取りだし、中身を何回かに分けて崖の縁付近にばらまいてみせた。見たところ、何かの粒のようだが……? 続けてばらまいた何かに、瓶に入った液体のようなものを何滴か垂らしている。アレはなんなのか? 何かのおまじない? おまじない……ってことは……?
「まさか、イツキ? ここから決死のダイブを強行せよ、とか言い出さないだろうな?」
「……!? まさか、まっさかさまにバンジーなジャンプをするんでヤンしゅかぁ!?」
「は? 馬鹿か、お前らは? そんな無謀な真似を誰がすると言った? 渡るんだよ、橋を!」
え? 橋? 橋ぃ? どこにもないっすよ? だから橋は上がったままってさっきも言ったでしょーが! どこにあるんですの? 見えないよ? まさか馬鹿には見えない橋とかでも用意したんですかね? だからおまじないか! ミラクルパワーを引き寄せるために運気アップの神頼み行動をしたんですな?
「橋? 橋ないですよ? まさかエアー橋を心の目で見て渡れとおっしゃいますか?」
「エアー橋!? とんでもなく高度なテクニックが要求されるでヤンス! 失敗したらもれなくまさかのまっ逆さまが確定するでヤンしゅう!!」
「馬鹿か、お前らは! 何がエアー橋だ! そんな妄想ごときで脱走できると思うなよ! 実際に渡れる橋を今から用意すんだよ!」
「名付けてフラワーロードですよ! 今からお花を咲かせて花一杯の橋を作るんです!」
「なんだよ? 最初から言ってくれればいいのに……。」
え? 何? お花? 今度はフラワー、カリフラワーですか? フラワーロード? お花畑じゃん? それを橋にするって発想がそもそもお花畑じゃん? そんなんで渡れるんだろうか? それよりも竹藪を作って、バンブージャンプした方が手っ取り早くないですか? え? そんなこたぁない?
「お前らの想像力が馬鹿すぎるなんて、最初から感情に入ってねえんだよ!!」
「イツキ君、そんなに怒らんでもええやねん?」
「後で憶えてろよ。絶対にとっちめてやるからな、二人揃って。」
ああ、もう、なんかコイツのポジションが確定したわ。ファルじゃん。完全にファルと俺たちのやり取りそのままじゃないか? やっぱ、ちょっと頭が切れる系のキャラならもれなくこういう役割を振られる事になるんだな、としみじみ思った。代役は割りと降って沸いてくるんだな。それよりもエルのポジションは絶対に出現しないよな? やっぱりあの娘は唯一無二……、
「ヨシ、出来たな、フラワーロードが。さっさと逃げるぞ、野郎共!」
何だかんだ馬鹿なやり取りをしていたらいつのまにか花で橋が作られていた。これで本当に渡れるのか心配ではあるが、今はコレに頼るしかなさそうだ。逃げおおせるために足を一歩踏み出そうとしたところ、何やら背後に嫌な気配を感じた。何か、地獄の底から見つめてきているような恐ろしい殺気を纏った……、




