第86話 お前はどうするんだ?
「タンブル! お前達は仲間と一緒に脱出しろ! ヘイフゥもあっちにいるブレンダンとフォー・ナインを頼む!」
「じゃあ、お前はどうするんだ?」
「お前らが脱出の準備をしている間にコイツを何とかしてみせるさ!」
俺は決断して即刻周囲の仲間に指示を出した。ヘイフゥは静かに頷いて二人のいる所へと向かったが、タンブルは一瞬キョトンとした顔は見せたものの、すぐに仲間の元へと走って行った。
これでいい。二人とも基本的にはドライな性格だから、的確に行動してくれたので助かった。下手に助けに入られたら、みんなが助からない可能性だってあるのだ。この方がやりやすい!
「貴方が囮になるというのね? 勇者としては模範的な行動と言えますけれど、ただそれだけで今までの罪が帳消しになるわけではありませんのよ?」
「んなこたぁ、わかってる! 俺が囮になれば良いだけなんだから、そこに勇者とかそういうのは関係ない! 最善の策を選んだだけだ!」
「あら、そうですの? でも、貴方はかんちがいなさっておいでなのでは?」
「勘違い、って何を?」
「囮としての役割を最後まで果たせるのかしら?」
義手を串刺しにして俺を動けないようにしながら、反対側の腕から棘を突出させてきた! 当然の事ながら、回避なんて出来る状況ではなかったので、左腕を盾代わりにして防ぐ! それでも複数の棘は凌ぎきれる物ではなく、腕も貫かれ、身体も何カ所か棘が突き刺さってしまう。辛うじて急所に刺さるのだけは防げた様な状態だった。
「しぶとい! 今度こそ命を取ったと思いましたのに!」
「ぐふっ! そういうわけにはいかないさ! 簡単にやられたら囮としては失格だからな!」
「口惜しいですわ! でも、これでお互いに動くことは出来なくってよ!」
全身が痛い。いっその事、倒れてしまいたいくらいに苦しいと思える。しかし、棘に刺された状態なので立ったままの姿勢を強制されているのだ。毒が効かないのは幸いだったが、その分刺された痛みにずっと耐えないといけなくなっている。これもみんなが助かるためには仕方のない事だと思いながら脱出する様を眺めた。
タンブルは棍棒で転移用の門を作り出して、仲間を次から次へと押し込んで行っている。タニシは俺の所に行きたがっていたが、タンブルは無理矢理押さえ込んで転移門へと押し込んだ。これでいい。これで良かったんだ……。
「オイ! 何のんびりとクソババアの心中に付き合おうとしてやがんだ?」
「ブレンダン? お前? 早く脱出しろ!」
気付けば、ヘイフゥ達はすでに脱出したようである。その間にタンブルも脱出してこの場からいなくなってしまった。取り残されたのは俺とバ・ゴーン、そして、ブレンダンの三人だけという状況になった。何故? ヘイフゥと一緒に脱出するのを俺は望んでいたのに! どうしてここに残っているんだ!
「脱出なんて出来るかよ。このババアの息の根を止めねえと気が済まないのさ!」
「ワタクシの命を取ると言うのね! そんなことが出来るとお思い?」
「やってやる! お前を道連れににしてでも、地獄へ送り届けてやるさ!」
(バキィィィン!!!!)
ブレンダンは左手で手刀を作り、俺に突き刺さる棘を全て叩き折ってしまった! 細いとはいえ、棘自体は普通に金属製の武器にも匹敵する堅さを持っていると言うのに何本もまとめて素手で叩き折ったのだ! 右腕の義手も手持ちの武器もない状況で大した戦闘力だ。正に全身凶器みたいな男だな。
「おのれ! 良くも! 覚悟なさい!」
「行け、勇者! 今のうちに脱出しないか!」
「お前を置いていけない!」
「馬鹿野郎! 俺は敵なんだぞ!」
敵なのかもしれない。とはいえ、ここで死なすわけにはいけない。こんな良い奴を見捨てるなんて出来ない! もう一度戦ってまともな決着を付けたいというのもある。それに……魔王に対抗するには絶対に必要な人材だとも思う。魔王と何度かやり合って生きている人間なんて早々いないからだ。
「この愚か者はともかく、勇者、貴方だけは絶対に逃がさないィッ!!」
「往生際が悪いんだよ、このクソババア!!」
(ガシィィッ!!!)
「放しなさい! この役立たず!!」
俺を意地でも逃がすまいと目を血走らせたバ・ゴーンは必死に追いすがろうとするが、ブレンダンに羽交い締めされ動きを拘束された。片腕しかないとはいえ、筋肉質な豪腕によってバ・ゴーンをいとも簡単に制してしまっている。バ・ゴーンの身体は細身であるし、上半身だけであるため軽いとも言えるが、びくともしないレベルで動きを封じてしまっているのだ!
「行け、勇者! 俺が押さえている間に脱出しろ!!」
「でも……、」
「放しなさい! 放さないとこうしてしまうわよ!!」
(ズシャァァァッ!!)
「グハァッ!!」
拘束から逃れようと暴れるバ・ゴーンは思いがけない行動を取った。なんと、そのままの状態で背後に向かって棘を突出させたのだ! 当然、ブレンダンは無残にも、その棘の餌食となりおびただしい出血を伴う程の怪我を負ってしまった! このままではブレンダンが死んでしまう! 毒もあるから更に危険な状態と言えた。
「行けーっ!! 俺の死を無駄にしたいのか、お前は!!」
「ちくしょーっ!!!」
俺はその姿を見て、”異空跋渉”を放ち、生じた空間の裂け目から外へ脱出した! 後ろ髪引かれる思いだったが、何としてでも行かないといけなかったのだ。あのまま助けたりしていたら、本当にブレンダンの行いが無駄になってしまうからだ。それでも、信じるしかなかった。無事にブレンダンがあの場を脱せることを……。




