第82話 何が何でも刺すつもりです!!
「ああーっ!?」
「派手に転びやがった!」
「こ、これは……!?」
ヘイフゥでさえ苦戦させていたというのに、以外と何の変哲もない足払いでバ・ゴーンは派手に転倒する結果になった。武器も義手もない俺なら楽勝で倒せると思っていたのだろう。
その油断が大きなミスに繋がったと見られる。ブレンダンなら絶対こんなミスは犯さない。その一方で、防御機能が働かなかった事にヘイフゥも疑問に思ったのか、声を上げている。
「やはり、素手による攻撃には反応しないのでは……?」
「やっぱヘイフゥもそう思う? 何かおかしいと思ってたんだ。」
「まだ断定するには早いかもしれないが、あの機能は武器に反応していた可能性がある。慎重に見定めて攻略するんだ。」
素手というか、前蹴りと足払い蹴りには反応しないのはわかった。たまたま反応に対応していない部分を攻撃出来ただけなのかもしれないので、ちゃんと見極めろよ、とヘイフゥは俺に注意を促してきた。
少なくとも槍には反応することはわかっているので、他も試してみる必要がある。どこで”武器による攻撃”として判定しているのか?を見極められれば、あの防御機能を無効化しつつ攻撃することが出来るだろう。
「よくも! このワタクシに恥をかかせてくれましたね! ただでは置きませんよ!」
「ただではって……死刑以上に何があるって言うんだよ……。」
「当然決まっていますわ! 二度、三度死んで頂きます!!」
「人って死ねるの一回だけだと思うんですけどぉ!!」
「殺せる限り何度でも殺して差し上げます!!」
バ・ゴーンさんご乱心! 血走った目をしながらヤバい事を連呼している! しかも、とても宗教家とは思えないような台詞を発しているじゃないか! 殺したら一回で終わるというのに二度、三度殺す、とは一体……?
怒りに我を忘れ、論理が崩壊してしまっているのかもしれない。これじゃ、ただのヒステリックオバさんじゃないか! 異端審問会のトップがこんな人でどうするというのか? 気分次第で惨殺されるなんてしょっ引かれる方もたまったもんじゃないだろう。
「潰れるのがお嫌いなのなら、無数の針で穴だらけになりながら、痛みに苦しみのたうち回るのです!!」
「やべぇ!? なんか攻撃の方針を変えてきやがった!」
「くっ!? 攻略の糸口が掴めそうになったというのに、これか!」
バ・ゴーンさんが更にご乱心! お得意のハンマーが当たらないなら、いっぱいの針で突き刺しちゃえ、的な発想に方向転換しやがった。全身から針を突出させながらズンズンと俺の方に向かってきた。
まるで棘だらけの海の生き物ウニを連想させるかのような出で立ちになっている。グロテクスなことこの上ない! もう、完全に”美”意識を捨て去ってるじゃないか! それなりに年増なクセに見た目に気を遣ってきた人間が、怒りに我を忘れただけでこうなってしまうとは……皮肉なものである。
「大人しく、今度こそ、お死になさい!」
「なんか今まで聞いたことないようなワードが出てきたよ!」
まるで針の山になったバ・ゴーンさんは俺に針を突き刺そうと近付きつつ、手から伸ばした針を槍のように突き出してきた。さっきの戦槌のように一撃必殺なプレッシャーはないものの、無数の針が俺を突き刺そうとしてくるため、多方向に気を遣わないといけなくなった。手数が大幅に増えたのはかなり厄介な傾向だ!
「相変わらずちょこまかと! さっさと一本でもいいからお刺さりなさい!」
「いやに決まってるだろ! 一本でも刺さったら毒にやられるかもしれないのに!」
棘の一本一本の殺傷性は戦槌に劣るが、刺しどころが悪ければ即死は免れないだろう。しかも、棘には毒が付加されている。かすっただけでも大事になり得る。身体にも不調は出るだろうし、余計にどん詰まりな状況に追い詰められるだろう。とにかく今は武器がないので大きく間合いを取りつつ回避に専念するしかないのだ!
「このような攻撃はどうかしら!」
「うぐっ!?」
(ザシュッ!!)
バ・ゴーンさんは腕の複数の針を放射状に展開して伸ばしてきた! 更に棘は細くなっているが、更にリーチが伸びた上にその範囲も広がっているため、回避は困難なものになった! そんな状態だから回避しきれずに一部の棘が身体を掠めてしまった! このままではマズい! 次第に毒が回れば、今度こそ俺の負けは確定的になる!
「あたったーーっ! 終わりですわ! 今度こそ貴方の終わりが来たのですわっ!!」
「くっそ!」
「ロア!!」
ちょっと攻撃が当たったからといって、バ・ゴーンさんは鬼の首を取ったかのような喜びようだ。確かに何カ所か刺さってしまったので、毒が回るのも時間の問題だろう。俺もその内、死ぬはず……とはいえ毒の影響があまりないような気がする。気のせいか? それとも額冠の加護があるから効き目が薄いのだろうか?
「ワタクシ達異端審問会が誇る最高の毒で死なない者などいません! 貴方はもう死んだも同然なのですわ!」
「ん? 審問会が誇るって、もしかして、アンタらが共通で使ってる毒とかだったりする?」
「当たり前ですわ! 基本的に一撃必殺な毒など何種類も必要ないのですわ!」
「ああそう。それは残念だったねぇ。ニシシ!」
「何がおかしいんですの!!」
審問会特製の毒って事か。しかも、同じのを使い回している。同じ部署内で。大抵は一回相手を殺せれば十分だろうから何種類も用意する必要はないと考えているのだろう。それが今回は仇となったのだ!




