第80話 耐性があったとしても……、
「ホホホ、効いてきたようですね? それなりに強い物を使ってますのに、ここまでかかるなんて。」
「やはり……棘に仕込んでいたのだな……毒を!」
私は身の不調を感じ、思わず膝を突いてしまった。身体を攻撃から守り、時には全方向に対しての攻撃を行う棘。あの棘には毒が仕込まれていたのだ。相手は明言していないが、反応を見れば仕込んでいたというのを明確に理解出来る。そして、身体を蝕む痺れ、視界の違和感、呼吸の乱れ等典型的な症状が現れているのがその証拠だ。
「それにしても意外ですわ。以外と付着した量が少なかったのかしら? 大抵の方なら一刺し数秒で倒れますのに。」
「フフ、そう簡単に私は倒れない。影響が出ているとは言え、毒には多少の耐性を持っていてね……。」
「毒に耐性? その様な特異体質をお持ちだったなんて。まるで異教徒の暗殺者の様ですわ。」
詳細は異なるものの、私が毒に耐性を持っている理由はおおよそそれで間違いはない。何故なら私は成人するまでの間に暗殺者の組織に与する人間だったからだ。暗殺者の教育の一環として毒への耐性を作るのが慣習となっている。
日々、食べ物や飲み物に少量の毒を仕込み、徐々に耐性を作っていくのだ。半数程の人間はそれだけで命を落としてしまう者も多いが、無事生き残れば大抵の毒を無効化できるほどの耐性を持つことになる。
しかし、その代償として寿命が短くなるそうなのだが……生業の性質上、それまでに命を落とすことの方が多い……。そんな経歴を持つ私にさえ影響を与えるとは大した物だ。異国故、材料の異なる未知の毒物を用いているのかもしれない。
「穏やかな死は免れた様ですけど、どの道、無残な死を迎えることには違いありませんわね。ここでようやくの幕引きとなりそうです。少し名残惜しいですけれど……。」
「良くそんなことが言えたものだ。単純に武力制圧すると見せかけて、このような手段までしこんでくるとは。こんな聖職者がいるとは聞いて呆れる……。」
「毒が回っていますのに、饒舌なこと。ワタクシには次の仕事もありますのでサックリと片付けさせてもらいますわね……、」
巨大化した戦槌が大きく振り上げられ、私に向かって打ち下ろされてくる風圧を感じ、遅めの回避行動に入ろうとした。しかし、何者かの気配が近付いてくるのを察知し、それは取りやめた。それは明らかに私を庇おうとする無鉄砲な気配に感じた。間違いなく、この気配は彼であるのは間違いないと思ったからこそ、それに委ねることにしたのだ。
(ガッ!!!)
「ふんぎぃ!? なんとか間に合ったな! バ・ゴーン、アンタにはレン……ヘイフゥは倒させねぇ!」
「……なっ!? 貴方がどうして!?」
その者の正体は……ロアだった。元勇者と処刑部隊の隊長の相手を任せていたはずだが彼が私達の間に割って入ってきたのだ。しかも、武器すら所持していない! 義手ですら砕けた状態である! わずかに残った義手の部位と左腕で戦槌の長い柄の部分を受け止め、踏ん張りを利かせて攻撃を防いだのだ!
「貴方がどうしてここにいるのです! シャルル様は? ブレンダンをどうしたというのです?」
「へへっ、ブレンダンはあっちで寝てるよ。俺が勝った。シャルルはご覧の通り魔王と戦ってるよ。」
「ブレンダンが負けたと言うのですね? 全く困ったものですわ! 最後のチャンスを与えてあげたというのに、敗北するだなんて!」
あの大男を打ち負かしたなんて。少し実力的にはロアに荷が重い相手だと思っていたが、それは杞憂に終わったようだ。でもよくよく思い返してみれば、格上の存在すら打ち負かしてしまうのは今に始まった事じゃない。やはり梁山泊を離れて以降の彼はほとんど別人の様になったと言わざるを得ない。直接目の当たりにすると、その成長ぶりには驚かされる。
「いい勝負だった。ヤツはおおいに楽しんだ上で負けたことにも納得していた。終わった後の顔はとても清々しい感じになってたよ。」
「遊び半分で戦うから負けるんですの! やはり、裏切り者は処刑するに限りますわ!」
「遊び半分なんかじゃないやい! どちらが死ぬかわからないくらいの大勝負だった! タンブルと戦った後じゃなかったなら、俺が負けていたはず。アイツと戦った影響であの鈎爪義手がヘタってたから勝てたようなもんだ!」
先に戦っていたと見られる魔王の得物はあの無骨で巨大な棍棒だ。聞いたところによると、あれはデーモン・コアその物であるらしい。デーモン・コア自体も毒性が強いらしく耐性がなければ金属ですら腐食させる作用も持っているようだ。何度か切り結んだ際に触れでもしたのだろう。頑強な鈎爪であっても劣化は免れなかったのだろう。
「このまま押し潰して上げますわ! ワタクシが直々に成敗します!」
「なんでもかんでも殴り壊せると思うなよ!」
(ドガッ!!!)
未だに戦槌を受け止められた状態は継続していたので、オードリーは押し潰そうと力を込めた。その動きを察知したロアは相手を蹴り飛ばして難を逃れる形になった。普通に蹴り飛ばせた……? 例の棘に阻まれずに? 妙だな? 機能を止めていたとも思えぬし、そこには何か攻略の手立てに繋がる秘密があるのかもしれない!




