第79話 茨の棘にはご用心
「三人分の私の攻撃に対し、体から生える無数の槍。気兼ねなく相手取ることが出来るから、却って都合が良い!」
「綺麗な薔薇には棘があるものです。気安く触ろう物なら痛い目を見ますわよ。」
相手の防御の手の内が判明したところで再び波状攻撃の攻勢を始めた。相変わらず無数の一撃を繰り出し、そのいくつかは身体に命中しているものの、身体から生える棘に阻まれ弾かれてしまっている。しかも攻撃を弾いているのだから、それなりの強度を持っていると推測できた。ウニウニと蠢いてはいるが金属相当の硬度は保っている。不可思議な材質で構成されているのは間違いなさそうだ。
「体中から突き出る針といえど、全身全ての箇所から出せるわけではあるまい!」
「その通りですわ。良いことに気付かれましたね? かと言って、その様な場所を容易に狙えるわけではないのでは?」
「その様な場所でも躊躇いなく攻撃してみせる!」
(シュバッ!!)
攻撃を阻む棘が生えない場所……それは顔面! いや、頭部と言っても良いかもしれない。肉体をゴーレムに置き換えているというのに頭の部分だけは正体を明かす前から一つも変化していない。美しい女性のままであった。つまり、この部分だけは棘が生えないと見た。あくまでも美に拘る、この女性ならば醜い姿になる選択を取らないであろうと予測したのだ……。
(……ギィン!!!)
「なっ……!?」
「甘いですわね。ワタクシの顔から棘が生えないとでも思ったのでしょう? それは正解だと言えますけれど、何も対策を考えていないなどとお思いですか? キチンと策も講じておりますのよ!」
「クッ! なるほどな。その棘はある程度の長さまで伸びるということか!」
顔面に突き入れた穂先は見事に棘によって阻まれてしまった。もちろん顔から突出したのではない。胸の辺りから棘が伸び攻撃を弾いていたのだ。棘を出せない場所は近くの部位から突出させることで防御機能の死角を補っている様だ。
手足等、狙われた部位から突出する場合よりもある程度は機能は制限を受けているのだと思うが、防御に関しては完全に死角がないことが判明してしまったな……。
「貴方のような槍の達人であっても、この身体に傷一つ付けることは敵わないことが理解して頂けたかしら?」
「武術に頼らない防御方法をここまでの水準にまで発展させるとは大したものだ。」
「案外あっさり認めましたのね。お武家さんなら大抵はこのような場面に出くわすと憤りを覚える方が多いのに。」
「憤り、とまではいかないが、その様な技術に対しては遺憾の意を感じざるを得ない。我々も武術家としての意地が根底にあるからな。何としてでも意地を通してみせるさ!」
防御が完璧だからといって攻めの手を止めるわけにはいかなかった。相手に攻撃の猶予を与えてはならない。あの全てを破壊するという戦槌を用いた攻撃は何としてでも、打たせてはならないのだ。そのためにも付け入る隙を見せない様、絶え間なく攻撃を続ける。少なくとも、あの戦槌を振り回すに足る時間は得られていないのは確かなのだから。
「身の守りは鉄壁である事をご理解頂けたでしょうから、そろそろワタクシも攻勢に転じさせて頂かないといけませんねぇ!」
「そんなことはさせぬ! あなたには手出しも出来ぬまま倒れてもらうつもりだ!」
「ワタクシの武器はこの戦槌だけだと思ってらっしゃるのではありませんか?」
(ジャキィッ!!)
私は三方向から攻撃を繰り出していたが、その全てを棘に受け流され、挙げ句の果てにそのまま突出してきた棘に刺し貫かれてしまった! しかも分身体も含めて全てである。多方向から攻撃を仕掛けたのにも関わらず、全てを一度に制されてしまったのだ! そして、彼女は高らかに笑いながら、巨大化した戦槌を振りかぶった。
「オホホホ!! 数をそろえてワタクシの動きを制したおつもりなのでしょうけど、逆に全ての方向を制されるとは思っていなかったのでしょう? 甘いですわ。ワタクシの戦いには無駄というものがありませんのよ。隙を敢えて見せるというのも手だということを思い知りなさいな!」
「クッ!?」
(ブゥン!!!)
大きく周りをなぎ払うように戦槌が振るわれた。事前に察知できたとはいえ、棘に動きを止められた状態であったため、戦槌の近い位置にいた分身が逃げ遅れ消滅させられた。
私自身ともう片方の分身は逃れることに成功したが、回避した先を狙って相手の追撃が牙をむいた! その動きはあまりにも速く、分身が回避しきれず受け流す体勢に入ったが、戦槌の圧倒的質量に負け、体勢を崩されあっけなく叩き潰される結果になった!
「惜しかったですわ。あともう一人でしたのに!」
「まんまとやってくれたな! たった一度の隙で私の攻勢を崩すとは!」
(ゴワッ!!!!)
二体の分身を倒すだけに留まらず、相手の追撃はしばらく続いた。受け流しすら潰される圧倒的質量感を持った攻撃は回避に専念するしかなく、完全に立場が入れ替わるような事態となってしまった。
しかし、それも長く続かず、次第に自身の身体が言うことを聞かなくなってきていることに気付いた。それに気付いた相手は攻撃の手を止めニッコリと微笑んでこちらを見ている。もしや……あの棘には……、




