第78話 無限の正義《インフィニット・ジャスティス》
「フフ、無限ときたか。拡大解釈すれば”正義の増長”という風にも受け取れるのだが?」
「増長だなんて、失礼ですわね。邪悪を討ち滅ぼす願いが増幅され、より一層正義の威光が輝きを増すのです!」
戦槌の巨大化……より一層、相手の攻撃を警戒しなくてはいけなくなった。ただでさえ問答無用に敵対するものを粉砕するという力を持っているというのに、今度は質量増加による攻撃の重さが加わるのだ。下手に受け流そうものなら、こちらの槍がへし折られてしまうかもしれない。確実に回避することを念頭に置かねばなるまい。
「そちらが更に本領を発揮するのならば、こちらも少々秘策をひろうしなければならないようだ。」
「秘策? ああ、そういえば貴方の流派には珍妙な技が数多く存在するのでしたね。そんなものは正義の威光の前には……!? な!? 姿が……人数が3人に増えた!?」
「五覇奥義……離伯月影!!」
まだ完全には習得できたとは言えないが、我が流派が誇る究極の秘技”五覇奥義”を使うことを決意した。私も実際に目にしたのは一年前、宗家白龍が幻と言われた奥義を甦らせていた事には驚かされたものだ。それ以来、私も習得を目指し日々鍛練を行ってきたが、実戦では初めて使うことになった。
「まるで幻術……に見えますのに魔力の気配を一切感じませんわね。」
「これはあなた方がよく知る魔術の類いではない。列記とした武術の技だ。」
「武術で魔術のような現象を巻き起こすなど、創造的ではありませんわ。そのような行為は魔術・奇跡で起こしてこそですのよ!」
東洋武術の知識のない彼女には原理が解りかねるのだろう。この技は闘気によって陽炎のような効果をもたらすもので、自身の分身として追従させ戦わせることが出来る。
闘気による幻であるとはいえ、本人と遜色ない動きをさせることができ、たった一人で波状攻撃を繰り出すことすら可能だ。とはいえ精神力の消耗が激しく長い時間の維持は難しい。出来るだけ短い時間でけりをつける必要がある。
「貴方が何人いようと関係ありませんわ。必ずこの戦槌で粉砕してみせます。正義は絶対に勝つのですから!」
「あなた方が全てにおいて正しい訳ではないのだ。その思い上がりを正してみせる!」
激しい戦いが再び始まった。私は数を生かして多方向から攻撃を仕掛ける。どれだけ身体能力が優れていたとしても、その動きで多方向からの攻撃を全てかわし切るのには限界があるはず。その速さも私一人だけの時でも回避に専念しなければいけないほどでしかない。
「あなたに逃げ場はない! 食らえ、燕雀連攻!!」
「多方向から無数の突き!? そんなの卑怯ですわ!!」
多方向からの連撃は到底かわしきれるものではない。その攻撃のいくつかは、相手の体に命中しているのは間違いない。だが……何か妙な違和感を感じた。槍が何かに弾かれる様な感触があるのだ! しかもただ彼女の体に弾かれたのではなく、こちらと同じような槍に弾かれた感触を感じる!
「むう!? これは!?」
「ホホ! 驚かれたでしょう? 貴方の攻撃が防がれていることに。不思議でしょう? 貴方の攻撃が弾かれたことに!」
「体の表面に槍、いや、針か!」
「貴方は処刑器具の事をご存じのようですけど、その詳細について失念しているのではなくて? 鉄の処女といえば”針”は欠かせないものでしてよ?」
「まさか! その様な性質まで再現しているというのか!」
鉄の処女の内部には無数の針が備え付けられている、というのは知っている。だがその性質まで再現しているとは思わなかった。彼女の体の各所に針が飛び出している。処刑器具とは逆に体表面に露出する仕様になっているとは! これが私の槍を阻み、身を守っていたのだ!
「ホホホ、驚いたでしょう? これは新型ゴーレムの防御技術の最新型なのでしてよ! “相転移力場”の欠点を克服した最新技術なのです!」
「新型のゴーレムには奇妙な防御障壁が仕込まれているとは聞いていたが……まさか、その改良型にお目にかかれるとはね。」
エレオノーラから聞いたことがある。新型のゴーレムには攻撃を防ぐための障壁が常時展開されていると。転移魔術の応用で攻撃をあさっての方向に逸らせる力があると聞いた。攻撃時の入射角を考慮したり、体術のような組技なら無効化できるとも。だがそれとは異なった防御能力のようだ。魔術的にではなく物理的な突起によって攻撃を逸らす方法を講じたのだろう。
「この新システムの名は”触れ得ざる血棘”。ワタクシが直々に命名したのですわ。」
「華やかな響きに対して、なんと血生臭い性質な事よ……。」
ブラッディとは”血塗れ”を意味する言葉だったと思う。なんという悪趣味な女性だ。宗教家でありながら、自らの体が血に塗れていることに酔いしれているかのようだ。あれは防御のみならず、その名の如く相手を血塗れにする事を示しているのだろう。まるで全身が武器になっているかのようだ。




