第75話 これ以上、どうしろと……?
「くそ! これじゃ、どうしようもない!」
攻撃をかわしつつ、予想外の展開に俺は焦っていた。しかも、こんなまともに戦っても勝ち目がなそうな相手の時に目潰しをくらってしまうなんて! 見えていたとしても攻撃を回避するのも精一杯な相手を気配だけで判断してどこまで凌げるかわからない。
「これでは前が見えねえよなぁ? でも、そんなことを言ってたらホントに負けちまうぞ? 心の目にでも頼らん限りはそのまま死ぬだけだろうな?」
心の目……それは実際に今も使っている。でなきゃ、今ごろとっくに死んでいる。しかし、これがいつまで続けられるのかっていう問題がある。心の目ってのは相手が血の通った人間なら通用するが、そうではない部分……義手の機械的な動きまでは察知できない。あの爪が、あの杭が打ち出された時に反応出来るのか? あれはただ単に手にした武器とは違って気配を感じないのだ!
「見せてみろ、お前の真の底力を!」
「もう見せたじゃないか! アンタの技を破って見せただろ!」
「あんな程度で底力とか抜かすな! もっととんでもないことをしでかして俺を圧倒して見せろ!!」
無茶なことを言う! あれ以上の奇跡を起こせなんて言われてもそうそう出来ることじゃない! あれにしたってやろうと思って出来たことではない。俺の生存本能が勝手に悪あがきをしただけに過ぎないんだ! 二度も同じような、いや、それ以上の事を起こせと言われても……無理だ。
「もういい! お前のようなヤツは無様に死んでしまえ!!」
(ガキィッ!!!)
「むぐっ!?」
相手の攻撃を読み誤り、まんまと首を鈎爪に掴まれる結果になってしまった! 鉄の冷たい感触が首の回りを完全に覆っているのがわかる。そして、足が浮き、俺の体重が首だけに掛かるような感触がした。ブレンダンは俺をつかんだ状態で俺を吊し上げる体勢に持っていったのだろう。
「俺がお前の底力に拘る理由を教えてやろうか?」
「ぐ、むむ……。」
「俺は見た! お前が大武会の決勝で見せた大逆転劇を! あの、絶対不利、絶対無理な状況を覆し、勝ちを重ねた相手の実績すら覆した完全勝利の瞬間を!」
大武会……? あの時、コイツもいたのか? あの日どこかで俺の戦いを見ていたのか? 以外とあの試合を見ていたヤツは多いんだな……。ジムも見ていたと言っていたし、この男まで……。あの二度と再現不可能な逆転を再び起こせと言うのか? 無茶を言わないでほしい。あんなのは滅多に出来るもんじゃないから、”奇跡”と呼べるんだ……。
「俺はな、あの戦いを見て以降、ずっとお前と戦いたいと思っていた! お前が俺と戦う時はどう戦うのか、俺とのパワー差をどうやって埋めてくるのか? 試したくてどうしようもなかったんだよ!!」
あの日の戦いを見てから、俺と戦うことをずっと望んでいたのか……? それまでの間、ずっと俺の技、戦法への対策をずっと練っていた? だからこそ俺の八刃は破られたのか? いつか俺とやり合えるのを待望しながら、必勝の策を練っていたんだ……。
「だが、実際はどうだ? こんな事くらいで消極的に、逃げ腰になってやがる! 俺はこんな腰抜けと戦うために策を講じてきたんじゃない! あの日のとんでもない技を使うお前と戦いたかったんだよ!!」
「期待は外れたか……。すまんな。俺はどうしようもなく弱い男だ……。」
(ブンッ!!!)
ブレンダンは俺を掴んだまま大きく義手を振り上げ、わなわなと腕を力ませてみせた。義手ではあるが、生身の筋肉のある部分からその力の入れ具合が金属越しに伝わってくる。俺を持ち上げて、そのまま地面に叩きつけようとしているのかもしれない。
「クソ野郎が!! お前のようなヤツは無様に血をぶちまけて死んでしまえ!!!!」
目では見えないが、何か下に向かって風を切るような感触が伝わってきた。高く上げた義手を思い切り振り下ろしたのだろう。今度こそ終わりだ。叩きつけられるどころかついでに杭でも打ち込まれれば確実に俺は死ぬだろう。それこそ血をぶちまけることになる。
……これは一瞬で終わると思っていたのに、またしても時間が停止してしまったかのように意識が続いている。そこでふと思う。自分の体は以外と自由に動かせるのではないかと。今ここで義手から逃れる様な行動を取れば、案外あっさりと出来てしまうのではないかと……。
(ズドォン!!!)
「な、何ィ!?」
(バキャアアッ!!!!!)
渾身の力で右手を相手の義手に向かって打ち込んだ。爆拳鉄砕……俺は義手を使ったパンチで相手の鉤爪を横殴りし、粉砕したのだ。少し視力が戻ってきたのでうっすらとその光景が見える。そこから瞬時に俺は相手の拘束から逃れ、着地し体勢を立て直す。
そこへ相手が爪の砕けた義手を俺に叩きつけようとしてきた。何らかの破裂音も同時に聞こえ、杭が打ち出されたのだと理解した。これに対して自らも義手の拳を以て対抗した!
「極端派奥義、爆拳鉄砕!!!」
迷っている暇なんてなかった。あの杭に拳で対抗するのは無謀かもしれない。でもそんなことはどうだっていい。今はとにかくありったけの力で相手の戦いへの熱意に答えてやりたかった。勝つとか負けるとかじゃない。なんとしてでも立ち向かわないといけない場面が、人生には存在するのだ!




