第70話 その技、竜巻《ハリケーン》の如く。
「手が治ったなら、早速動くしかない! 早く、あのゴーレムおばさんを倒しに行かないと……、」
”勇気の共有”で思ったよりも早く傷が治った。回復魔法ですら治すのに時間がかかる骨の再生すらアッという間だった。だからといって、感心している場合じゃない! オードリーが本性を現した所で苦戦は免れないだろう。あのゴーレムが半端なく強いのはよく知っているから早くみんなを助けに行かないといけないのだ!
「待ちな! 約束をすっぽかして余所へ行くつもりか?」
「何を言ってるんだ! こんなことしている場合じゃない!」
「こんなことをしている場合なんだよ! 忘れたか? 俺が敵だってことを! 貸し借りのやり取りがあったって言っても、別に仲良しこよしになったワケじゃないんだよ! 行くんなら、俺を倒さない限り通してはやらないぜ!」
俺としたことがうっかりしていた。ちょっと仲良くなったからといって、ブレンダンは仲間になったわけじゃない。俺との決着を付けるために筋を通してくれただけなんだ。実際にはここからが本当の戦いだ。これで状況は五分と五分。ここからは本当にどちらかが倒れるまで終わらない戦いが繰り広げられるのだ。
「さあ、来な! 剣を握れる位までは回復したんだろう? 握れないってんなら、素手で殴り合いでもいいんだぜ?」
「素手って……。アンタのは素手よりも恐ろしい武器がついてるから剣で戦うよりも勝ち目がなくなるよ!」
「だったら必死に剣を振り回して、俺を倒してみな!」
その言葉と共に肉厚の大剣を思い切り振り下ろしてきた。それがブレンダンとの死闘第三ラウンドの開始の合図になった。まともに受けたら剣がへし折れそうな攻撃を、横から剣を当て微妙に軌道をずらしながら回避する。こうでもしないと避けることも難しい。下手に避けようとすれば猛然と追い打ちの雨霰に晒されることになる。
「チッ! 早くも俺の攻撃の傾向を掴んできやがったな!」
「こうでもしないと死ぬんで!」
一撃目のみならず続けて打ち込まれてきた攻撃も同じ傾向でいなしていった。しかし、こちらから攻撃を差し込む隙は一切なかった。あれだけ巨大な剣を使っているのに、レイピアみたいな細い剣で使うような繊細なテクニックさえ持ち合わせているのだ。
フェイントや急な軌道変化等、読み切れなかったら即、”死”に直結するような攻撃ばかりを放ってくる。それがさっきの洗脳状態とは大きく異なる。パワーファイターなだけじゃない。この男は剣士としても超一流なのだ!
「そうだな、一回殺せるくらいの攻撃じゃ物足りないって言うんなら、十回くらい殺せそうな技をお見舞いするしかなそうだな!」
「一回で十分です!」
「遠慮するな! お前が最大奥義を見せてくれた礼だ! こっちも処刑技をお見舞いするまでよ!」
ブレンダンは下段に剣を構えたかと思うと、下からすくい上げるような一撃を見舞ってきた。切り上げの攻撃かと思われたが、予測が外れた! 刃を横にして峰の部分で叩くような一撃だったのだ!
デカい上にやたらと横幅の広い剣だけに、俺は回避のための判断を見誤りまともに食らう羽目になったのだ。剣に体を掬われるような形になり、そのまま頭上高く放り投げられてしまった!
「うわああっ!?」
「行くぜ! 竜巻の如くと例えられる俺の技をとことん味わいな!!」
(バアアアァン!!!)
打ち上げられ落ちてきた所を再び打ち上げられた。そしてまた落下し打ち上げられ……これを立て続けに四回も繰り返されてしまった。体勢を立て直して脱出を目論んだが、動けそうな状態になる直前で下からの打ち上げが入る!
しかも次第に俺の体には横向きの回転が加えられているのだ。そのせいで目が回る! 天地の向きさえこんがらがる状況で体勢を立て直すのは無理に思えた……。正に竜巻に巻き込まれたかのような状況だった。
「普通のヤツなら、この始動技の末に地面に叩き付けただけで死ぬ。だが、そこへ更にダメ押しの一撃を加えるのが俺の処刑技だ!」
(ガッ!!!)
「ぐぬっ!?」
空中で回転している俺の高さまでヤツは跳躍し、喉元に剣の刃を当てた。そのまま斬るのではなく当てるというか、押さえるようなマネをしてきた! これはおそらく落下と共に首を落とすという寸法に違いなかった! 正にヤツのコードネーム”断頭台”に相応しい技だと言えた……。
「これで終わりだ! 断頭台スペシャルNo.1、”竜巻断頭斬”!!!」
「うわあああっ!!!」
正に絶体絶命! このまま俺は首を落とされしまうのか……? 端から見ていれば、一瞬で終わりそうな出来事のはずなのに、今の俺には物凄く長い時間のようにも感じた。終わりだからと言うことで感覚が引き延ばされているんだと思う。
昔から言われている走馬灯とか言う現象なのかもしれない。でも、昔の事柄が次々と思い浮かんでくるとか、そういうのは一切なかった。でも……俺達の所に何かの気配が近付きつつあるのを感じた。一体誰が……?




