第68話 鉄の処女《アイアン・メイデン》
「あなたのそれは……防具の類いではないと解釈していいのかな? 明らかに体の一部に見えるが……?」
「面白い質問をなさるのですのね。何であろうと、ワタクシはワタクシでしてよ。」
破れた衣服の下から覗いていたのは鈍色の輝きを持つ無機質な物質だった。本来なら肌が露出し、あるいは赤い血を流していたかもしれない。それとは明らかに異なる体表面が露出したのだ。
防具、鎧の類いの可能性も考えたが、あの細さではあり得ないのだ。あの細さで防具を着けていると言うのなら、まさしく骨と皮だけの肉体と言えるだろう。だが、そんな異常な痩せ型というのならば、顔付きなどにも現れるはずで、あの戦槌を振り回すに足る腕力はどこから出てくるのだという謎が残る……。
「貴殿の身体能力の秘密はその金属の様な肌と関係あると考えても良いか?」
「どの様に解釈して頂いてもよろしくってよ。これは最新の技術を使った物ですから、あなた方、東洋の方には不可思議に思えるのかもしれませんね。」
最新の技術? これは未知の技術の結晶と言いたいのだろうか? 確かに私達の国とは違い、魔術を応用した装備や設備が多く用いられていることには驚かされたものだ。とはいえ、その技術力が行き過ぎて禁忌の領域にまで乗り出し始めているとも聞いた。特に羊の魔王が用いていた技術がその筆頭だが、目の前の女性はそれとは異なるものだろう。
「ゴーレムだ! その女は噂の新型ゴーレムの技術を使っているんだ!」
「何だって?」
「あらあら、不躾なこと。早くも正解をばらしてしまうのは趣がなくて面白くありませんのに。じっくりと謎を紐解くのが醍醐味ですのにね。」
イツキと呼ばれていたタニシ君の友人が技術の正体について言及した。ゴーレム……カラクリ人形を魔術の力で駆動させる技術だと聞いたことがある。かつて魔術学院でそれらが人間に対して反乱を起こした事件があったとエレオノーラから聞いた。自律的な思考を持たされた物も存在するためにその様な事件が起こったのだという。それと目の前の女性が同一の技術が用いられていると言いたいのか……?
「その若作りの体やあり得ないほどの怪力を両立できる技術はそれしか有り得ねえ! 下手したら、もうオードリーなんて人間はこの世に存在しない可能性だってある! 審問会のバックに”工房”が付いてるのは影から操るためだったんだ!!」
「憶測だけでよくもまぁ……。ワタクシを亡くなった事になさるなんて妄想が飛躍しすぎですわよ。教養の足りない方が”陰謀論”に浸かり混み、勘違いのまま世の中に絶望する傾向があるようですね? まさしく貴方がその象徴とも言えますわね。」
「教養がなくて悪かったな! だが、噂とか都市伝説の類いだった話が現実だったってのが最近は明らかになってきているよな? それこそアンタの方が陰謀論の象徴みたいなモンだぜ? 自覚くらいはしとけよ!」
ちょっとした口論にまで発展しているが、彼女の肉体は別の物に置き換わっていると解釈してもよさそうだ。先の学院の事件でも問題になっていたが、生身の人間とゴーレムを置き換えることによってゴーレム側はひっそりと勢力を拡大していたのだという。
人の魂、記憶を人工的に製造した体に移し替える技術は既に存在しているのだという。ジムやローレッタという例も実際に目の当たりにした。彼女もそうであるのかもしれない。
「これは少しでも教団内での優位性を勝ち取るために行った措置ですのよ。そして……ワタクシ自身がいつまでも若く美しい体を以て、審問会を率いれる様にと努力した結果なのです。」
「よく言うぜ! 人であることを放棄して、冷徹な処刑マシーンに成り果てたヤツを誰が信用するっていうんだ? そんな気味の悪い奴らに管理・支配されるなんて気味が悪いったらありゃしねぇ!」
「私は神にこの身を捧げたのですわ。信仰のためなら、不老不死、永久不滅の体を手に入れることだって厭わないのです。これが信仰……神の信徒にあるべき姿なのですわ!」
「狂った信仰には違いないぜ!!」
これが……彼女の言う信仰か。中々に理解しがたい価値観だな。私とて流派に身を捧げたような立場ではあるが、肉体を置き換えてまで守ろうとは思わない。人として生きていれば、いつかは肉体は朽ち果てる。
そのために自分だけであろうとするのではなく、後継者、次の世代を担う者達の育成に励めば良いのだ。そう思うからこそ、彼女の信仰は狂っているとさえ思えてくる。イツキ君と同じ意見を持たざるを得ないのだ。
「では、証明して見せましょうか? この肉体がどれだけ素晴らしいのを。信仰が形になった姿をとくとご覧なさい!」
(バサァッ!!!)
「……!?」
「ひっ……!?」
オードリーは身に纏っていた神官服を破り捨て、真の姿を露わにした! その場にいた全員が思わず息をのんだ。悲鳴に近い声を上げている者までいる始末だ。金属の様な体、正に全身に渡って鎧を着けているような質感の体が我々の前に晒された。その細さから、やはり防具の類いではないことが一目でわかった。もう彼女は人の体を完全に捨て去ったのだ。その名残は顔や頭髪に残っているのみである!
「これがワタクシのパーフェクトなボディ。かつて名乗っていた暗号名を形にした物なのでしてよ。これぞ真の”鉄の処女なのですわ!」




