第67話 不可解な強さ
「ワタクシが得た情報では貴方の正体は女性ではありませんの? 何故、声を変えてまで男性の振りをなさっているのですか?」
「一時は正体を隠すために被っていたものだ。一度は仮面を壊され封印していたが、戦いの時はこの方が実力を発揮しやすいと気付いてな。再び着けることにしたのだ。」
槍と戦槌という、互いに特性の相反する武器で何合も打ち合いながら、相手は私の正体に関して言及してきた。どうやら私に関する情報を思い出してきたようだ。今の仮面を着けて活動していた時期は大武会よりも前の話になるから、情報は限られていたはずだ。
「ひょっとして武芸の名門ご出身ということは、女人禁制だったからということではありませんの?」
私は梁山泊で女性であることを隠して鍛練に励んでいた。養父の白狐の友人と身分を偽り、梁山泊に入門したのだ。基本的には女人禁制となっているためである。それ以降、槍覇としての位を継ぎ、流派の一端を担うこととなった。
「正直に言えばそうだ。男子のみで修行に励むという性質上、禁欲的な生活を強いるために色恋の類いを持ち込ませないためと言われているな。」
「あくまで表向きの話なのでしょうね? 実際には優秀な女性に地位を奪われることを恐れたが故の処置なのでしょうね。ワタクシにはそう思えてしかたがないのですよ。」
彼女の言うことは間違っていないだろう。実際に優秀な女性に地位を奪われ、若しくは奪われそうになった男性がその相手の女性を策に嵌めて陥れる等という話は歴史を紐解けばいくらでも出てくるものだ。「女性を要職につけてはならない」という考えすらある。基本的には女性蔑視の考え自体は根深いものだ。
「まだそのような考えが根強いのですね、東洋の国は? 貴女もこちらの国にいらっしゃればいいのに。近年は女性の地位も向上してきていますのよ。ワタクシも地位向上の運動には積極的に関わっていますのよ。」
「それは結構な事だ。私の立場からすれば、貴殿の行いは尊敬に値すると言えるな。」
緩やかに女性の社会進出について討論しつつも、手元足元は互いに忙しなく動き、激しい打ち合いを続けている。特に彼女の武器は地面の形を大幅に変え、元の平坦な地形は影も形もなくなってきている。こうして攻防を繰り返すうちに彼女の体、戦い方に関して何らかの違和感を感じずにはいられなかった。
「武門の一角を担われているだけの事はありますわ。見事な腕前です。貴女を敵として相対するよりも、味方として引き入れたい位に思えてきましてよ。」
「恐れ入る。だが私は流派を捨てるつもりはないよ。あなた方の教団の教義とやらにも興味もない。」
「残念ですわ。珍しく気の合いそうな方と巡り会えたと思いましたのに。」
彼女の動きの違和感……体の筋肉の付き方等から判断するととても実現は不可能な動きをしているのだ。武人のそれではなく、むしろ武の心得など一切持たない貴婦人といった佇まいなのだ。これはエレオノーラにも言えることだが、彼女は闇術の原理を用いて超人的な膂力を得ているので説明は付く。
しかし、この女性は……同じように身体能力を上げる術を用いているとしか思えない動きを実現しているのだ。しかし、教団の神官がそのような手段を用いるだろうか?
「やはり、あなたは手強いと見るしかないようだ。私も少し本気を出させてもらうよ。」
「あらあら? まだ本気を出していなかったのですね? でしたらワタクシの恐ろしさを垣間見ることになるでしょう。」
「……月影百歩!!」
(……シュン!!!)
私は出来る限りの速さで、相手の背後に回り込む様に動いた。これである程度、彼女の力の本質が見えてくるはず……彼女が瞬間的に私の動きを捉えた? 私のいる方向へ一瞬にして翻り、その回転の慣性を利用した一撃を叩き込んできた!
(ゴギイッ!!!!)
「あらあら? やはり容易にはいきませんね? あなたの槍を壊すつもりでやりましたのに?」
「くっ!? その槌頭に触れなければ良いということは読めていた。それさえ避ければ受け流すことはできる!」
槌という武器の特性を知っていれば威力を殺したりすることは出来る。頭以外の部位に自らの武器を当て軌道を逸らすようにすれば良いのだ。しかしとっさの動きに反応してくるとは、やはり尋常ではない。この行動は明らかに技の域を外れている。反射神経で無造作に力任せに行った攻撃でしかないのだ!
「見事なものだ。私の動きを制するとはな。しかし、あなたに対して疑いを抱かずにはいられない。人の身ではない可能性を!」
「あら、嫌だ。ワタクシをバケモノの類いだと勘違いされているのかしら?」
「暴いて見せる、その力の源泉を! ……鴻鵠合衡!!!」
全身全霊の力を込めて、神速の一撃を放った! 渾身の一突きでも躱されはしたものの、相手の左上腕を掠めることには成功した。相手の正体を見極めるのにはそれで十分だった。袖には一筋の切れ込みが入り、その下にある肌が露になった。いや、アレは”肌”と呼べるものではないな……。私は恐ろしいものを暴いてしまったかもしれない。




