第64話 ”義務”よりも”義理”ってことよ!
「やはり魔王に比べれば、短時間で決着が付きましたね!」
俺はまだ死んでいないというのに、もう倒したものと思い込んでいる。確かに見た目的には俺は多大な隙を作ってしまっている。剣を弾かれ、のけ反った状態でいるのだから、剣で防ぐことも回避することもできない……様に見えるはずだ。
だが、これはあくまで見せかけであって、俺が反撃に転じている最中にあることに二人は気付いていない! ブレンダンが剣を振り下ろそうとしている所に横凪の一撃を加える!
(ザンッ!!)
「グガァッ!!!!」
「うっく!!」
ブレンダンの攻撃が俺のすぐ右側を通りすぎていく! 間一髪当たらずに済んだ。そして俺の一撃は相手の顔、というか仮面を切り裂いていた。仮面が壊れ、兜から脱落し地面に落ちて乾いた金属音を鳴り響かせた。これでおそらく洗脳は……、
「ば、バカな!? あの体勢から!? あの大袈裟なのけ反りはフェイントだったとでもいうのか?」
「食らったとか、隙ができたと見せかけて攻撃をする技は梁山泊の極意の一つ。これは俺のオリジナル、極端派の奥義って事になる。名付けて”旋円回弧”だ!!」
「こ、小癪なことを!!」
長い期間、修練を重ねて練習していた甲斐があった。自分よりも力の強い相手と戦うとき、反撃に転ずる手段として考えていた技だ。元はタンブルと初対面で戦った時の出来事から着想を得た技だ。
武器を大きく弾かれた時、その慣性を利用して奇襲を仕掛けられないか、と試行錯誤した結果、この技が完成したのだ。強すぎてまともに武器を打ち合うことすら難しい相手への対抗手段として編み出したのだ!
「ぐ、う……。」
「兜の洗脳マスクが破壊されるとは! 初めからこれを狙っていたなんて!」
「当たり前だ。このまま、ただ襲いかかってくるだけのブレンダンとは戦いたくなかったからな。互いに不本意な状態で決着を付けても意味ないし。」
「つまり、やろうと思えば、あの瞬間に首を落とせていたということなんですね? 随分と余裕を見せつけてくれるものだ!」
ブレンダンは左手で顔を押さえながら、低い声で呻いている。これで洗脳が解けたのかはまだ判断できないが、何らかの影響が出ているのは間違いない。シャルルも仮面の事を”洗脳マスク”と言っているので、アレ自体にそういう機能が付いていたと見て間違いない。
「ハハ、目が覚めたぜ、この野郎。最悪の目覚めだぜ、コレは!」
「ムウッ!? 洗脳が解除されてしまった!」
「ここからはもう、アンタらの好きにはさせないぜ、シャルルさんよ!」
「隊長!!」
唸り声しか上げていなかったブレンダンがようやく人語を話せる状態にまで回復した。シャルルは心底悔しがっているが、以外にも傍らにいたヘイゼルは嬉しそうな顔をしている。やはりあの状態のブレンダンを見ているのは心苦しかったのだろう。自分の上司が物言わぬ戦闘マシーンと化してしまうのには抵抗があったみたいだな。
「よお、勇者。待たせてすまなかったな。こっからが本当の果たし合いの始まりだ。心行くまで楽しもうぜ!」
「ああ、待っていたぜ! アンタも策があるって言ってたのにこんな事になっていたからどうしたもんかと心配したんだぜ?」
「何をふざけた事を! ブレンダン、あなたは職務放棄でもするつもりですか!」
「職務放棄も何も、ババアに楯突いた時点で辞表を出したも同然だからな。俺は異端審問会の方針には従えないって意思表示は済んでいるはずだぜ?」
あの日、オードリーが俺のところに乗り込んできた時から、ブレンダンは異端審問会と袂を分かった様なものだと言える。トップの命令に従わないどころか、危害を加えようとすらしていた。
その時点でもう審問会を離れる覚悟で反逆の意思を示していたのだろう。職務よりも俺という宿敵との約束を優先させるなんて、とんでもない男だ。”義務”よりも”義理”ってことか。
「職務放棄に命令違反! それがただで済むとは思わないことです!」
「うるせえよ! 大体、何だ? アンタは俺の上司でも同僚でもないだろう? ババアにつてがあるからってでけえ顔してんじゃねえよ! 三流勇者は引っ込んでな!」
「隊長、それはいくら何でも言い過ぎです! シャルル様に失礼かと……。」
「おっと! ついつい口が過ぎてしまったようだな、悪い悪い! 完全に黙らせられていた反動でつい勢いがついてしまったぜ、ガッハッハ!!!!」
ブレンダンは豪快に笑う。意識というか理性を奪われていたとはいえ、本人の中ではかなり鬱憤が溜まっていたのだろう。それが今、シャルルに悪口という形で噴出してしまったようだ。といか、随分とヘイゼルには慕われているんだな。
あの豪放な性格がお嬢様育ちの、あの娘とは相性が悪そうに思えたんだが、以外とそうでもないらしい。といか少なくともスミスには慕われていたので上官としての素質はあるのだろう。隊長代理の件のことを考えるとな。
「さあ、やろうぜ、勇者! 第二ラウンドのスタートだ! これからお前は後悔することになるだろうぜ。俺の理性を取り戻した事にな!」
ブレンダンは改めて俺に向き直って剣を構える。さっきまでの闘争本能だけで向かってきたのとは違い、付け入る隙を全く感じさせない攻防バランスの取れた雰囲気を醸し出している。ここからが本当の死闘の始まりなんだということをひしひしと感じた。




