第227話 おとといの意味わかってんのか?
「ゴッツンを……、」
「金のない奴は帰んな! おととい来やがれ!」
怪しいゴッツンを売る露天の前で、客と店主のやり取りが繰り広げられていた。会話内容から察するに、両者は顔見知りの関係であるようだ。あの猫人はいつもゴッツンを買いに来ているのだとわかる。
しかも金がなくとも店頭に現れる傾向があるのだろう。店主からイヤな顔を向けられ追い払われている。今回は「おととい来やがれ」と言う言葉を真に受けて、来たみたいであるが……、
「おとといの意味わかってんのか? このゴツ厨が!」
「おとといとは二日前のことニャ。常識にゃ!」
「じゃあお前、二日前に戻れたのかよ?」
「多分大丈夫にゃ! 二日前と同じように同じ時間に来たのにゃあ! 間違ってないのにゃ!!」
「間違ってるわ、ボケ! 二度と来んなって言ってんの!!」
「じゃあ、時間戻しの魔法を習得しないとゴッツンは買えないのニャ……。」
「だから違うって言ってんだろうが!!」
”おととい”という単語に対して、なんか妙な解釈をしている様だ。一昨日に来やがれ、というのを二日前と同じタイミングで来るという意味合いで考えていたらしい。ある意味、間違ってはいないのだが、二日前という二度と戻れない時間に来い、というのは二度と来るな、というのを意味しているとは思ってないのかもしれない。時間を遡る魔法に関しての言及もあるので、真面目に考えている可能性がある。
「じゃあ、お金があればいいのにゃ?」
「当たり前だ! でも、持ってないんだろ?」
「じゃあ出世払いで!」
「お前のどこに出世する要素があるんだよ!」
「ええ? あるニャよ? ただのゴッツン切れからゴッツンパワー回復した状態になるのにゃ!」
「それはゴッツンが手に入った前提じゃねえか! というか、なんで買える前提になってんだよ! それにそれはお前の状態であって、身分は変わらないだろって言ってんの!!」
金がないなら、の定番である出世払いが出てきた。しかし、見込みのある駆け出しの冒険者とかならまだわかるが、ただの物乞いじゃあなぁ……。あの猫人は見た目通り物乞いの身分のようだ。ゴッツンがあれば何とか生きる活力が得られるからせがみに来たのだろう。というか、お金ないのに食事とかはどうしているんだろう? 食べ物よりゴッツンですか?
「身分? 今のニャアは物乞いなのにゃ。だから将来的に……行き倒れに出世するのにゃ!!」
「それも身分じゃねーし! 行き倒れって、結局死んでんじゃねえかよ!!」
「だから、そうならないためにもさっさとゴッツンを寄越すのニャ!」
「やるか、ボケ! 勝手に死んでろ!!」
状態と身分は違うことを猫人は理解したらしい。しかし、物乞いならいずれは飢え死にしてしまうということで行き倒れを連想したようだ。でもそれじゃもらえないし、それは身分と言うよりも立場と言った方が良いんじゃないのか? そうならないためにとせがむが、当然もらえない。猫人はその一言で大人しくはなったが……、
「バタン!!」
「何やってんだ! こんな所で寝るなよ! 商売の邪魔だ!!」
「寝てるんじゃないのにゃ。死んだのにゃ。勝手に死んでろ、とか言ったから!」
「ああもう、いい加減にしろ! どかねえんなら、力尽くで追っ払うぞ!」
店の前で死んだフリ。だが所詮フリはフリ。その程度でゴッツンがもらえるはずもなく、営業妨害にすらなっている。店主も流石に堪忍袋の緒が切れたのか、実力行使に出る素振りを見せ始めた。これを見た猫人は危険を察知したのか、慌てふためきながら周囲に助けを求めようとしていた。その途中で俺と目が合ってしまった。
「お助けなのにゃあ!」
「え? ちょっ……、」
「なんだぁ? 見かけねえ顔だな? 冒険者か?」
「うん、まあ、そうだけど?」
「邪魔するってんなら、アンタもまとめてとっちめちまうぞ?」
「ちょ! それは困るから……俺がゴッツンを買う、ってのでどう?」
「ああん? じゃあ特別価格で提供させてもらうわぁ! 一ダースセットで売ってやんよ? 金持ってそうだしな?」
「ははは……。」
なんか揉め事に巻き込まれた挙げ句、示談まで請け負わされる羽目になった。店頭に並んでいるゴッツンをまとめて購入させられる事になるとは……。高い金を払わされた。酒場とかで鱈腹飲み食い出来る位の金額を払うことになった。でも仕方ない。ここで勇者の額冠を外してまで身分を隠しているのだし、目立ってしまっては大きな騒動になりかねない。それだけで済んだ、としておくしかない。
「わーい! やったにゃあ! ゴッツンをおごってもらったのにゃ! これだけあれば豪遊出来るのにゃあ!!」
「うわ……早速持ち逃げされてしまった!」
「なにやってんだ、アンタは? 馬鹿に構うからそんなことになるんだよ。」
金を払い終えた所で気が付けば、喜び勇んだ猫人にゴッツンを持ち逃げされてしまった。イツキが言う通りごもっともである。トラブルに巻き込まれ損だったかもしれない。せめてあの猫人の名前だけでも聞いておけば良かったかもしれない。あのゴッツンだけでは何時までも暮らしていけるはずがないからだ。何かこれを切っ掛けに立ち直る手伝いが出来れば良かったのだが……。




