第226話 エロイヌ・クッサイヌ♪ クサイヌ・エッロイヌ♪
「エロイヌ・クッサイヌ♪ クサイヌ・エッロイヌ♪」
俺とウィンダムはクロガネ団一行と共にこの国最大のスラム街と言われるモースト・ウッデンへと向かっていた。レンファさんだけは同行せずに一度エル・ダンジュの方面へと戻っていった。
それはエルと合流するためである。彼女と俺はモースト・ウッデンで落ち合う予定なのだ。その道中の安全を確保するために迎えに行ってくれたのだ。危険な場所だが、教団も下手に動けない場所ではあるので、そこなら大丈夫だろうという話になったのだ。
自由交易都市ヴェスパ? あそこは結構、教団のスパイが潜り込んでいるらしかったので再会には不向きな場所だったのだ。でも、以外と教団は手を出してこなかったのは幸いだったが……。
「さあ、ドドンガ・ももんが、呪文をとーなえよう♪」
「その歌は何? タニシ君がずっと歌ってるけど?」
タニシの奇妙な歌に首をかしげるキョウナ。実は彼女だけレースやその前後の出来事の事を知らない。レース当日に体調を崩して寝込んでいたのだ。レンファも姿を見せていなかったのは彼女を看病するためだったのだ。
キョウナはレース当日までにみんなの健闘を祈って無理をしすぎていたのだ。なんでも、オリガミと呼ばれる紙で作る鶴をたくさん用意して願望を成就させるというおまじないを必死にやっていたのだ。
「さあ? なんかプリメーラに言われた悪口が元ネタらしいけど? そのショックからインスパイアを受けて作詞・作曲を手掛けたらしい。知らんけど。」
そのおまじないを成功させるには合わせて千羽の鶴を作る必要があったので、連日徹夜続きであったのだ。前日までには完成したものの、疲労でぶっ倒れたので宿でずっと寝込んでいたというわけだ。レース本番を見れなかったのは不幸だが、その願いが叶ったのか見事イツキ達が優勝できたのだから報われたと言えるのかもしれない。
「ヘタレの考えることは訳がわからん。」
このフレーズと歌の原因になった場面をイツキは見ていたので呆れている。アイツもあのアホ娘プリメーラの騒動に巻き込まれたのだから仕方がない。アイツはイツキの治療を通じて獣人の魅力に取り憑かれてしまったので、無理矢理仲間に引き抜こうとしていたし。しかも、謎の”モフモフ”要員としてである。そんな適当な起用は認められるはずもなく、プリメーラは退けられたのだった。
「でも、楽しそうじゃん。それ、えろーいぬ・くっさいぬっ♪」
「ほら、ぺぺんが・ががんぼ、僕らのタニシ君♪」
なんだか知らんがタニシのテーマが爆誕してしまったようだ。タニシの歌に歌詞を付け足し、センベイとキノがタニシのテーマとして無理矢理完成させてしまった。この二人は時折、気分が乗ってくると即興で妙な歌を歌い始める癖があるのだ。その度にイツキの怒号もオマケで付いてくるのが風物詩となっている。あのレース中も”星雲の歌”とかいうのを歌っていたらしいが真実は定かではない。
「そろそろ街に入るぞ! 気ぃ引き締めろ!」
「とうとう入ることになるのか……。」
のんびりゆっくり変な歌を歌ってはいるが目的地は目前まで迫っていた。なんかどんよりとした雰囲気を持つ建造物群が目に入ってきた。基本的に古い石造りの建物が多いようだが、大半の建物には後から増設したものと思われる木造の小屋とかが屋根に乗っかっていたり、場合によっては橋渡し的に他の建物と繋がっていたりで奇妙な風景を作り出していた。木造の部分は嵐でも来たら一瞬で吹き飛ばされそうな程ちゃちい作りで、本来の石造りの部分も大分風化しており、地震でも来れば容易く崩れそうに見える……。
「なんか見てるだけで不安になってくるな……。」
「そうか? オレはこういう所の方が落ち着くんだけど。ホッとするんだよねぇ。」
「タンブルはこういうスラム街の出身なんだ。こういう風景の方が見慣れているんだよ。」
タンブルはこの街を見て落ち着くという。すかさずイツキからの解説が入ったが、どうやらそういうことらしい。解説の続きからするとここではないようだが、同じように荒んだ街で生まれ育ったそうだ。日々をスリやら盗みやらで凌いでいたそうだが、ある日、先代の犬の魔王と出会った切っ掛けでクロガネ団入りを果たしたそうだ。クロガネ団自体、タンブルが設立したのではないという事実は以外だった。
「新作のゴッツンはいらんかね~? おいしいよ~!」
街に入ったところで目に入ってきたのが所せましと立ち並んだ露店だった。どうやら街の市場に当たる場所であるらしい。市場……とはいえ、他の街とは明らかに違うところがある。見るからに違法そうなものが堂々と並んでいるのだ。
盗品みたいな物やら残飯らしきものまで売られている……。流石にスラム街だ。ヤバそうな匂いがプンプンする。その中で目立っていたのがゴッツン・ゴーを売っている露店だった。アレも正規の瓶ではない物が使われているし、中身も……虹色だった。
「ゴッツン一つくれにゃー!」
「また、お前か? 金もないのに来るんじゃねーよ!」
露天の前に現れたのは一人のみすぼらしい格好をした猫人だった。どうやらゴッツンを求めてやって来たようだが、露天のオヤジには嫌な顔をされている。なんでも、金を持っていないからだという。確かにその猫人は財布とかお金らしいものを一切持ってなさそうではある。なんかいきなり闇深そうな光景を目の当たりにしてしまったな……。




