第223話 予期せぬ訪問者
ロアが異端審問会に連行されていった後、すぐにでも助けに行きたいと思った。でも、下手に動けば私さえも拘束されてしまう恐れがあったからだ。それでもロアの救出に向かおうとした私をみんなが引き留めたため、エル・ダンジュの町で大人しくしているしかなかった。
サヨさんが救出作戦を立案し、教団組織のしがらみに縛られていないレンファ先生が異端審問会の収容所に潜入する段取りを取った。連絡を待っていたらサヨさんから吉報が届き、ホッと胸をなで下ろした。
「元気だといいけどな……。」
私はサヨさんからロアの無事や今後の目的地についての連絡を受けたので、聖都の方面とはいえ、ほとんど治外法権地帯となっているスラム街、モースト・ウッデンなら問題ないと思ったので会うことくらいは出来るだろうと思っていた。彼の元へ向かおうと準備していた矢先に誰かが仮住まいを訪れた気配があった。
「貴公がエレオノーラ・グランデだな?」
一人の見知らぬ女性が住居に入ってきた。彼女は一目で美人だと誰もが思いそうな外見をしている。碧眼で陶磁器を思わせるような白い肌、金色の美しい髪を後頭部でまとめてシニヨンにしている。服装はほとんど旅の外套で隠れているけれど、足や手には紫がかった黒色の手甲や具足が見えているため、同色の金属鎧を身に付けていることを窺わせていた。この人は恐らく、いずこかの勢力に属する騎士……?
「どなたでしょうか? 私はあなたのことを存じていないのですが?」
私は彼女のことを知らないのに、彼女はフルネームで私の名を呼んだ。どこで私のことを知ったのだろう? 顔まで知られている……。
「これは失礼した。私の名はジアーナ。」
「ジアーナさん? どうして私のことを?」
「どうしてだと……? 貴公は自身が名の知れた人間だと自覚がないようだな?」
「自分から自身の評判を気にするような人なんて滅多にないと思いますけど?」
「”普通”はな? だが貴公の場合は話が違うのではないか?」
それは私の素性のことを言っているんだろうか? 勇者としてのロアやファルさん達のようなクルセイダーズ所属の方々みたいな一般の人々にも名を知られているならまだしも、私は彼らほど名は通っていないと思う。でも教団からしたら話は違ってくる。私は闇術使いの異端者としてお尋ね者になっているのだから。だとすれば、目の前の女性は教団の関係者……?
「貴公は元は魔術師であるが、武の心得があると聞いている。」
「そこまでご存じなんですか?」
「存じている。存じているからこそ、貴公と一戦交えたい。」
「初対面の方と戦うだなんて……出来ません!」
「町中ではそうかもしれないが、戦場ではそうも言ってられないだろう?」
「ここは戦場ではありませんよ!」
物腰柔らかい騎士さんだと思っていたら、私との対戦を希望している……? 彼女の突拍子もない発言に理解が追い付かなかった。でも、彼女の希望には応えたくなかった。ここは町中だし、住居の中。そんな場所で戦えば近所の人達にも迷惑がかかるし、住居の損壊や人々を怪我させてしまう可能性だってある。理由もない戦いを承認するわけにはいかなかった。
「私にはあなたと戦う理由なんてありません。そんなことをするなんて意味がないじゃないですか。」
「意味はあるとも。私がいずれ対峙するであろう人物の前哨戦と考えている。」
「誰と戦うつもりですか? 私を介さずにその方と戦えば良いのでは?」
「その相手が……貴公にとっての大切な人物であっても、同じ事が言えるのかな?」
「……!?」
その一言で私は察した。多分、ロアのことを言っている。彼と戦う前に私との対決を望んでいる? 私と打ち倒すことで彼の戦意を煽ろうとしているのかもしれない。彼も見知らぬ人とは容易に剣を交えたりしないのは私がよく知っている。
最初から命を狙ってきている時でもない限りはなるべく不殺を心がけているのを今まで側で見てきたから。だとしたら、彼女は何のために彼と対峙する必要があるのだろう? こんな礼儀正しい人が腕比べとか、町中で戦いを望んでいるなんて、そんなことをする人には見えない。
「私はいずれ、不適格勇者たる男、ロアを斬って捨てなければならない運命にある。」
「ロアを……? どうして? あなたのような人が何故その様な使命を……?」
「私は聖剣の使い手として勇者ロアを成敗せねばならん。それは法王猊下から与えられた使命でもあるのだ!」
彼女は聖剣の使い手を名乗った。聖剣と言えば……六光の騎士の中でも最高峰の栄誉を与えられた者にだけ与えられる至宝である、とエドワードさんから聞いたことがある。現在の所有者は女性で法王直属の騎士団、神殿騎士団所属であるとも。しかも6人の中でも最強の実力を持っているらしい……。そんな人がたった一人で私に会いに来るなんて……。




