第220話 おとなのあいすくりん
「あれ? 臭くない方の犬の人だ!」
「プリちゃん、言い方が失礼アルよ!」
「タニシ君のお姉さんだ!」
「ごめんなさいねぇ~! うちの弟が迷惑かけてるみたいで。」
ここで意外な人がやって来た。みんなの言動から察すると、あの犬の人のお姉さんらしい。たしかレースではカラクリの制御を担当していたみたいだけど……? そんな人が何故プリちゃんを? 確かプリちゃんはあの人も狙ってたみたいだから薄々視線を感じていたから助け船を出しに来たのかもしれない。
「タニシの姉、シジミです。賢者さんにお話があって、やって参りました。」
「シジミと申したか? 何の用じゃ? 見ての通り、妾達は取り込み中でのう。こやつに用があるなら後にしてくれい。」
「まあまあ、賢者さん、落ち着いて! ここは私の顔を立てるということで、丸く治めてはもらえませんか?」
(ササッ!!)
「ムッ! これは!?」
シジミさんは小さいガラスの器に入った物をサヨ先生に差し出した。中には半球状の白い物が乗せられている。良く見ると黒っぽいのが点々と含まれているのがわかった。アレはもしかして……彼女が屋台で売っていた”あいすくりん”という食べ物かもしれない。でも販売していた物の中にはああいうのはなかったと思うけど……?
「ささ、どうぞ。これをお納めくださいませ。」
「ふむ? そなたが売っておったアイスクリンか? この様な物はなかったと存じておるが……もしやレーズンをブレンドしておるのか?」
「左様で御座います。さすが高名な食通で名を馳せているだけの事はありますね。」
「ふむ、これだけではあるまい。きっとレーズンだけの付加に留まらぬのであろう。どれ……、」
「きっとお気に召すかと……?」
サヨ先生は差し出された器を受け取り、あいすくりんをスプーンで一口食べてみせた。そしたら、途端に不機嫌だった顔が驚きの顔に変わり、次々と無言であいすくりんをひたすら口の中に運ぶのだった! 先生がここまで夢中になって食べるなんて珍しい! 好物を食べたときにしか見せないような表情してる!
「うーーまーーーいーーーーぞーーーーー!!!!!!」
「どひゃあ!? ババアがおかしくなったぁ!?」
「お気に召しまして?」
「見事じゃ! なんたる美味! レーズンを加えるだけでなくラム酒もブレンドすることによって更なる香りと味の重厚感を増しておる!!」
「現在開発中の”おとなのあいすくりん”第一弾、”らむ・れーずん”に御座います。」
すごい! 食通のサヨ先生をここまで納得させてしまうなんて! そうとう自信のある商品だったのかもしれない。お菓子にお酒を使ったことで大人の味に仕立て上げたみたいだけど、私も少し味が気になってきた。お酒は苦手だけど他に用意してあるならご馳走してもらいたいな……。
「代わりはないのかぇ?」
「あちらのテーブルに用意してございます。」
「プリメーラ、今日のところはこの程度にしておいてやろう。後日、日を改めて指導をするから覚悟しておるが良い!」
(ダーーーーッ!!!!)
「た、助かったぁ!!」
サヨ先生は早くも完食してお代わりを要求した。準備のいいことにシジミさんはしっかりと、しかもタップリ用意していた。先生はお説教中にも関わらず、後日に回すと宣言して一目散にテーブルへと向かっていった。シジミさんは完全に先生の注意をあいすくりんに向けさせることに成功したのだった……。
「ふう。これで交渉の場を用意できたわね。」
「ワンワン! キャンキャン! ご主人様、一生ついていきまふぅ!!」
「どういたしまして。でも、その表現は私達、コボルトの前ではご法度よ。人によっては逆上して暴力を振るわれかねないから。」
「はいっ! ご忠告ありがとうございヤス、姐さん!!」
最大のピンチから救ってもらったプリちゃんはシジミさんに速攻で懐いてしまった。犬の真似をしたのは流石に失礼だったようで、優しく窘められてしまっている。でも、気分を悪くすることなく、プリちゃんを指導するなんて、器の大きい人だと思った。やっぱり、プリちゃんに用があったみたいだから何を話すのか気になる。
「実はね……あなたに提案があるのよ。」
「助けていただいた以上は、何なりとお申し付けくだせぇ! 力になりやすぜ!」
「私、あなたのスポンサー兼プロデューサーになりたいと思ってるのよ。新しいスタイルの勇者パーティーを組みたいと画策してるんでしょう?」
「さっすが、姐さん! 話が早くて助かるッス!! こっちからもお声がけしようと思ってた矢先なんでさぁ!!」
まさかの参入希望? それどころか資金提供とか活動の計画とかも担当してくれそう? あの人はなんだか大きな会社のお嬢様で自身も経営者みたいだから、プリちゃんを見てピンと来たのかもしれない。割りと今までプリちゃんが無計画で活動してて資金難とかで悩んでたみたいだから、いい助けになりそう。
「やったんやで! これでホントにロボとか歌姫戦隊の構想が身になりそうやでぇ! 資金あるんやったら、例の銀色仮面のスーツみたいなの作って、”歌姫仮面”として活躍するのも夢やないでぇ! ぐぇへへへ!!!!」
「まあ、それも活動の影響次第ね。張り切って活躍すればするほど夢は叶うと思うよ。」
「プリちゃん、よだれ、よだれ!」
なんだか一気に夢が膨らんで弾けそうな勢いだった。さっきまでハカセさんや錬金術師さんに持ちかけていた計画を本当に実行するつもり? まだ二人は参入すると言ってないけれど……? それよりも”歌姫仮面”とはなんだろう? それってただの仮面を被った歌姫な感じがするのは気のせい?




