第216話 何か動いてるぅ~!!
「おい、元気そうにやってるじゃないか。」
シトラスとパーティーを満喫してたら、水を差してくる奴がいた。背後から声をかけられているから姿は見えない。見なくったって誰かはわかる。今まで一番多く聞いてきた声だし、似た声の人間には今まで会ったことはない。だから正体は割れている。でもこの世で一番会いたくない人間だから聞かなかった事にしておきたいが……、
「ねえ、ノーラ? 知り合いなんじゃないの?」
「別に。知り合いでも何でもないよ。」
ここにいるだなんて聞いてないよ。誰だい? こんな男まで招待した奴は? だいたい、レースに直接参加してないし、運営に関わっているわけでもない。ただの協力者ってだけで招待しやがるとは!
多分、クレメンス氏に違いない。だいたい、しれっと助け船やらちょっかいが出された時は、大本を辿るとだいたいあの人の仕業だとわかることが多い。余計なお世話をしてくれたもんだよね。
「でも、相手に悪くない? せっかく知り合いだと思って話しかけてきてくれてるんだし?」
「悪くない。別にそんなことされても堪える様な人間じゃないと思う。だから大丈夫。」
「堪える人間じゃない? 随分と買いかぶられている様だが、以外と繊細なんだぞ。男ってのはな。」
うざ! とうとう話に絡んで来やがったよ。シトラスがいちいち気遣いなんてするから……。気遣いなんて無用、メンテナンスフリーで安心運用できます、って年中顔に書いてあるような男なんだから、ほっとけば良い。メンテナンス保守が必要とか言ってても、職人が手持ち無沙汰にならないための口実だったりするしね。とにかく、メンテは無用!
「そういうこと自分で言うもんじゃないだろ。自分で繊細なんです、なんて言う奴はどうせろくでもない男に決まってるよ。」
「ちょっと、ちょっと、ノーラ! いつも調子で悪口言いすぎじゃない? 失礼だから止めときなよ!」
「……ハッハ……。言うようになったじゃないか? どんどん、カミさんに似てきてるな。」
「それって……!?」
「ああ、もう! 一言余計なんだよ、このオヤジは!!」
バレちまったじゃないか……。シトラスに悟られないように切り抜けようと思ってたのに。台無しだ。早い内に移動しとくべきだった。丁度、好物のカース・マルツゥ(※ウジ虫入りチーズのこと。実在します。)を目の前に夢中になっていたあたしもウッカリだったが、間が悪かったのは確かだ。もしかしたら、オヤジの奴はあたしが好物の前にいるとわかったから、敢えて接近してきた可能性も……あり得る!
「ノーラのお父さんだったんですか? 速く言って下さいよぉ!」
「お嬢さんには悪い事をしたと思っているよ。この子が意地っ張りなもんで仕方がないのだよ。」
「何、あたしのせいにしてるんだよ! このクソオヤジ!」
「もう、ダメだってば! お父さんにそういうことを言っちゃダメ!!」
「あんたは引っ込んでな! あたしとこのオヤジの問題なんだから!」
間に余所の人間が入るとややこしくなる。ハッキリ言って、この件には他人を関わらせたくない。大体、娘のあたしが悪いって結論になるしね。「親の言うことは聞くもの」とか、「親孝行しろよ」とかいうありきたりな結論で収束するからだ。あたしはそういうのがイヤだから実家を離れて敵対勢力に加担することになったのだ。憎いオヤジを倒すために。
「余計なことを言うあんたにはこれをあげよう。」
「へ? これはノーラがさっき食べてた……きゃああ!? 何か動いてるぅ~!!」
「またそんなゲテモノを……。カミさんといい、どうしてそんな趣向まで似てしまったんだ?」
「うるさい。ほっとけ。好きなもんは好きなんだから仕方ないだろ。」
シトラスはあたしが何を食べていたのか見ていなかったらしい。だからこそ効果てきめんだった。尻尾を巻いて逃げていったので丁度いい。そういや、これが好きになったのも母ちゃんが切っ掛けだったな。最初はイヤだったけど意外に美味しかったからクセになっちまった……。そんな母ちゃんが何年かしたら流行病であの世に行っちまうなんて、その時は思いもしなかったが……。
「まあいい。お前が元気そうで良かった。」
「何がだよ。あたしゃ、あんたが調子悪い方が良かったのにって思ってるのにさ。」
「良いもの作るようになったじゃないか。お前なりに。設計思想には共感できないがな。」
「は? なにさ? 別に褒めてなんて欲しくないよ! そういうのは余計なんだから。」
なんだよ、しれっと褒めてきやがるとは。気持ち悪い。そういうのが一番イヤだ。今まであたしがしてきた行動の数々は、このオヤジにイヤな顔をさせるためのものだった。それを……褒めるだと? 逆にこっちが嫌な気分にさせられちまったよ。別にこのオヤジを喜ばせる為にやってんじゃないんだよ。倒すためにやってるんだ!
「いいぜ。それくらい元気な方が張り合いがあるってもんだ。じゃあな。」
「何が張り合いだ。むしろ引退を決意させるくらいのモンをこの世に送り出してやるさ!」
こっから説教祭りでもするのかと思ったら、あっさりと逃げ帰って行きやがった。ますます気持ち悪い。何が”元気”だよ。こちとら作業中はいつも元気200%くらいの勢いでやってるってのにさ。余計なお世話だ。まったく、ヘンな気分にさせられちまった。今度、クレメンス氏にはタップリとお礼をしてやろう。可愛い子猫ちゃんでも大量に送りつけてやろうかな?




