第215話 正義の名の元に……?
「なんじゃと? クレメンスの奴めがそのようなことを申しておったのか?」
俺としてはクレメンスとの会話の内容はどこか腑に落ちない所が多かった。勇者ならそんな忠告ははね除けるべきだ、というのが世間一般の意見だろうが、半分ぐらいは納得がいく内容でもあった。一人で悩んでいてもしょうがないので、サヨちゃんに相談してみることにした。ちょうどこの場に相談できるような相手がいてくれて良かった。
「うん、まあ。学院での失敗を繰り返さないように、ってね。」
「それはもっともじゃが、あの件はそなたが受けていた密命を果たすためでもあったから、必然だったであろう。予期せぬ大事に発展してしまったのは、あの人物や妾にとっては誤算ではあったがのう。」
あの人物とは、”トレ坊”先生のことである。あの事件の裏ではゴーレムの反乱事件も起きていた。事の発端は学院内での行方不明事件にある。真相は反逆ゴーレムのリーダー、タルカスが人々を拉致してゴーレムに置き換える事で徐々に勢力を拡大していた事によるものだった。
「学院に入るための名目であったはずじゃが、かえってタルカスを刺激して大事に発展させてしまったからのう。」
「まさか、行方不明事件の裏にそんな陰謀が隠れてるなんて想像がつかなかったじゃん? その辺は割りとどうにもならなかったよな。」
学院に入るための裏の口実として、サヨちゃんがトレ坊先生に相談を持ちかけたからこそ実現したというのが大きい。しかし、表向きはトレ坊先生の存在は極秘扱いだったのでピッグには伏せていた。一応、真の依頼主はミミック君ことフォグナーさんだったので例の事件について問われたときは、彼の名を出すようにはしていた。
「あのさ、事件が大事になっちゃったのはどうも……”勇気の共有”が敵にも作用してるんじゃないかっていう、疑惑があるんだけど……?」
「あの力が敵にも作用しているじゃと? それはそなたの考察か? それとも誰かに吹き込まれたのか?」
「ええと、話せば長くなるけど、この前捕まった時にシャルルからそんなことを言われたんだ。フェルディナンドが暴走したのは俺のせいだ、と。」
「あやつめ……。そのような事を申したのか。あくまで疑いであろう? あやつは証拠を持っている訳ではあるまい?」
「実は……しっかり記録されちゃってたみたいなんだよ。あの時、こっそり盗撮されてたみたいで……。」
あの事件の真っ最中は気付かなかったが、シャルルは魔術師が使うあの魔導器を使って見ていたらしい。見ていた、ということは同時にその記録も残していたと考えておいた方がいいだろう。
後に裁判で立証するために俺の行動記録を色々取っている様に見受けられたからだ。なぜそこまで執拗に俺を監視しているのか謎が残るが……今はそれよりも”勇気の共有”のことの方が重要だ。サヨちゃんの見解が聞きたい。
「ふむ、あやつの申すように相手側にも効果が生じる可能性はあるかもしれんのう。」
「やっぱ、ありえるのか?」
「そなたが相手に関してどのような感情を抱いているかにもよるのじゃろう。効果が生じるからには、相手に対して”思いやり”の感情が作用していると考えて良いかもしれん。」
「思いやり? 別にそうは思ってなかったんだけどなぁ……?」
敵の事を思いやる? 俺は思い返してみても、そんな感情を抱いた覚えなんてなかった。正直、それ以上にいつも必死で生き残るために相手を倒すことしか考えてなかったと思う。そんな感情はある程度余裕がないと生まれないように感じる。相手と同様かそれ以上の実力を持ち合わせている状況でしかあり得ない事なのではとも思う。
「意識的には行ってなかっただけじゃろう。無意識的に、そのような感情が作用していたとしか考えられん。フェルディナンドの時は知らぬが、ヴァル・ムングに対してはどうじゃ? あやつが生きておったのはそなたの無意識の感情が作用していたとは考えられぬか? 妾とて、あの時ははヴァル・ムングが生きているとは思わなんだ。そなたが止めを刺しきれると確信しておったからの。」
「あれは……俺が未熟だったからなんじゃ……?」
「そうは思えぬ。あの時の力でも十分に倒しきれたはずなのじゃ。でも奴は生きておった。それがあったからこそ、エル坊を救えたと思うておる。タルカスが増長した件やゲイリーが暴走したのも、勇気の共有が作用していたと考える以外あるまい。」
ヴァルに対して、遠慮があったからアイツが死なずに済んだと? その件は納得がいかないが、エルを助けた時、ぶっつけ本番でうまく行ったのはそうだと考えないと説明がつかない。直後にエドと戦って無傷で終わらせられたのも、説得力を高める事実の様に思える。それ以降も不思議なことはあったが、直近ではあの男が生きていたという事実もある。
「そなたは歴代の勇者と異なる特徴がある。それに気付いておるか?」
「違うところ? 未熟で中途半端の所とか?」
「そうではない。そなたが違うのは、声高らかに”正義”を掲げていないということじゃ。他の者は基本、”正義の名の元に”という口実を掲げて行動するものなのじゃ。そなたにはそれが、ない。クレメンスはその行動指針が及ばす悪影響について懸念せよ、と言いたかったのではなかろうか?」
「そんな理由……?」
「あくまで妾の考察じゃ。どう思うかはそなた次第じゃ。早急に答えを出さずにじっくりと考えるが良かろう。」
確かに正義のため、という言い訳はあまり使ってこなかったな。そこまで自分の事を信じちゃいない。まだまだ未熟だから、間違った事をしてしまう事もある、と思っている。その自信の無さが今までの結果に影響を与えていたとサヨちゃんは言いたいのかもしれない。同時にピッグには色々見透かされていたというのも発覚したわけだが……。




