第214話 お前はまだまだお子さまよ!
「ちくしょう! 何が祝勝会だ! 俺はまたアイツに勝てなかったってのに!」
レース終了後、祝賀会とかいう名目で懇親会が開かれている。俺も招待されてはいるが、行くつもりなど毛頭なかった。関係のない会合に俺が参加したところで場が白けるだけだ。社交会なんぞ俺のような血生臭い男には似合わない。せいぜい、あちらで口を溢している憐れな小僧を見てほくそ笑むぐらいだろう。小僧の傍らには恋人らしき女が一人いる。
「もういい。アイツの事は考えないようにするんだ。いずれ機会を見て、再戦すればいい。その頃には私達の装備だってアップデートされているはず。」
「いいのかよ、リン? あんなクソみたいな野郎に負けっぱなしじゃ、気が済まないんだよ!」
あの小僧共は巷で掃除屋と呼ばれる魔術師崩れの傭兵だ。近頃は裏社会を騒がせるほどの荒稼ぎをしていたようだが、招待がこんなケツの青い若僧と小娘だったとはな。真実を知ったときには随分と白けたものだ。随分と勇者に執着しているようだが、軽くあしらわれる程度の精神性しか持ち合わせていないのだろう。少々喧しいので、俺が野次を入れてやるとしよう。
「おうおう! 負け犬の遠吠えってのがこんなにも聞き苦しいとは思わなかったぜ。キャンキャン五月蝿くてたまらねえよ。」
「誰だ!?」
「このオッサン……まさか? 審問会の断頭台かよ!」
「俺を知っているようだな。褒めてやるぜ。それくらいの知識は持ち合わせているようだ。」
恐らく、顔までは知られちゃいるまい。小僧の目線は顔じゃなく、俺の右腕の方に行っていた。俺の使う特性の義手を見りゃあ、ある程度、正体は特定できる。この義手を使う男、といえば自動的に俺に思い当たるというわけだ。ただそれだけで挨拶代わりになるとは便利なものだ。相手によってはこれを見た瞬間、失禁や気絶するくらい恐れ戦くヤツも多いからな。
「な、なんだよ、ただの死に損ないじゃないか!」
「おうよ。死に損ないだともさ。未練たらたらだったからよ、地獄から帰って来てやったのさ。地獄の主様に追い返されちまったようなもんよ。」
「死んだと聞いていたのに……。ゴキブリみたいにしぶといっていう噂は本当だったんだね。」
俺も死を覚悟していた。異空間が崩壊する最後の瞬間、俺の体は勝手に動いた。気づいた時には思いもしなかった方法で危機を脱していた。だがコントロールが不十分で、随分と明後日の方向に飛ばされちまったんだがな。
お陰であの糞ババアを取り逃がし、再び勇者に危機が訪れる羽目になった。それは数日後にクレメンスのオッサンから聞かされたんだが、囮を買って出た身としては随分と恥ずかしい結果となってしまったのは言うまでもない。
「アンタら審問会は俺らのボスと協定関係にあったんだろう? その上で勇者を仕留め損ねた。恥知らずもいいとこじゃないか? 工房に泥を塗ったようなもんだ! 整った装備で失敗したんだぜ、アンタらは!」
「うるせいよ。ババアが先走らなけりゃ、ああはならなかった。俺が計画的に攻めてりゃあ、今ごろは勇者の首を掲げて聖都に凱旋してだろうよ。」
「負け惜しみはみっともねえぞ、オッサン!」
「負けたのは悔しいと思ってねえさ。組織全体の作戦としちゃあ失敗してるが、アイツとの対決に関しては満足している。心行くまで戦った結果、俺の敗北で終わっただけの事よ。あそこまで戦い合えたのはむしろ”誇り”だと言ってもいい。」
「やっぱ負け惜しみじゃねえか! ダッセぇ!!」
「フン。それがわからねえなら、お前はまだまだお子さまよ。となりのネエちゃんのオッパイでもしゃぶってな。」
「あんだと、コラァ!!!」
やはりイキだけが取り柄の小僧でしかないな。喧嘩ってのをわかっていない。クレメンスから聞いたが、コイツらは何度も勇者に破れているそうだな? それでも敗けを反芻しきれていないからこそ、こんな醜態を晒しているのだ。それじゃあ、まだまだ戦士としてはヒヨッコだとしか言いようがない。
「オイ、コラ! レースの最後で邪魔しやがったのは、テメエだろ? この落とし前、どうやって付けるつもりだ?」
そろそろそれについて言及があって然るべきだと思っていたところで漸くの登場だ。小僧は例の”杭”を手に持っている。それは間違いなく、俺の義手から放たれた物。通常は至近距離で相手を串刺しにする兵器だが、緊急時には射出して攻撃することも出来る。
出来はするが、一回ポッキリの使用で終わってしまう。文字通り一か八かの切り札なのだ。それを惜しみ無く使ってやった。勇者に悟られずに助力するのにはそれで丁度良かったと言える。それに文句が言いたいようだが、ここで一発絞めておいてやるか。
(ガチャリ!!)
「な、なっ!?」
「おっと、いけないな? こんなあっさり間合いに入られているようじゃ、まだまだヒヨッコどまりだぜ? 戦場なら、お前は今の瞬間、死んだことになるぜ?」
「その体格でなんという速さ!」
「ちくしょう! 調子に乗りやがって!」
「調子に乗っているのはお前の方だ、小僧。いい加減勇者から手を引くこった。これからヤツは冥府修羅道を歩む事になるだろう。死よりも恐ろしい目に逢う覚悟があるヤツだけが近寄る権利を持っている。そこはお前らのようなお子さまの立ち入る隙はないぜ?」
瞬時に間合いを詰め、喉元に鉤爪を突き付けてやっただけで小僧は死に恐怖し、その場にヘタリ込んだ。少し脅してやっただけでこのザマとは……掃除屋の名が泣くぜ? 掃除屋が他愛もない輩と判明したところで、この場を去ることに決めた。次の戦場に備えるため、後はただひたすら牙を研ぐのみだ。




