第210話 私の眷属《ファミリー》だけが持つ能力
「彼はね、血の気が多いんだ。彼は一度暴れるとペンペン草も生えなくなるくらいに真っ更な土地に変わっちゃうよ。例えそれが聖都でもね。」
目の前に魔王が現れてしばらく時が経った。以外にも戦闘には至っていないが、この場には変わらず緊張感が漂っている。部下をやられたことに対する報復かと思われたが、逆に味方の計画をリークし始めたのだ。どういうつもりかはわからないが俺達への忠告をしているつもりらしい。これは信じていいものなのだろうか?
「うん? なにか疑いの眼差しを諸君から感じるんだが、遠慮してもらいたいなぁ。魔王である私だってそんな視線に晒されれば、参っちゃうよ。お馬ちゃんっていうのは繊細なんだよ? 私ら魔族だって馬なことには変わりないのよ?」
「よく言うよ……。こっちだってパーティーを楽しんでたのに、冷や水をかけられたみたいな気分だってのにさ。」
「でもね、本当なんだよ? 盗聴してたんだから、間違いない! ……って大っぴらに言っちゃったよ。下手すりゃキングに怒られちゃうねぇ。」
魔王は一貫しておちゃらけた態度を取っているが滑り倒しているので、場の空気は極端に冷えきっていた。冷や水どころの騒ぎじゃない。しかし、同じ陣営間で足を引っ張り会うものなのか? 盗聴までしているなんて。あまり想像ができないが、こっちの人間サイドにしたって教団なんかも対立とか内部抗争していたりするものだから、根本は変わりないんだろうか?
「試練っていうけど、アンタより格上なんだろ? 俺らのこと倒しちゃうんじゃないか? だとすれば、アンタの報復の機会がなくなると思うんだが?」
「心配してくれてるのかい? それとも、早く私と戦いたいのかい? まあどっちでもいいけど、確かに世間一般の評判通り彼の方が格上だろう。あくまで戦闘能力の上では私は彼に敵わない。それは事実だ。」
「じゃあなんで? わざわざリークなんてする? アンタと会うのはこれっきりかもしれないのに?」
「ええ? それは察してくれたまえよ。私は彼の事が嫌いなんだよ。あわよくば、君らに彼を倒してもらおうだなんて口が裂けても言えないじゃないか。あっ、いっけねぇ! ついウッカリ口に出しちゃったよ! これは本気でキングやウサギさんにバッサリやられてしまうかもなぁ。」
つまりは俺らに倒させようと目論んでいるのか? 強さの上でも格上だと認めているのに倒させようとするのは何だ? もし倒してしまった場合は、コイツが相手することになる。そういう場合は尻尾を巻いて逃げようとしたりするはずだが、何故かそんな風には見えない。それどころか一定の余裕すら感じる。それにあくまで戦闘能力の上では、とハッキリと言った。何か引っ掛かる表現だな?
「なんでそんな余裕なんだ? 格上の魔王を倒してしまったら、アンタも後がなくなるだろう?」
「別にね、強さを図る指標は戦闘能力だけではないと思うんだ。それを計り損ねた私の部下達は敗北を喫した。君達の能力を甘く見た。勝てるだけの能力は持っているのだけどね。」
「何が言いたいんだ?」
「君達は私の眷属だけが持つ能力の正体を見抜いていないのではないかい? あの娘達もあの能力を使えば君達に負けることなんてなかったはずだ。その能力を見切らない限り、私に勝つことは出来ないよ。見切っても対処は出来ないだろうねぇ。それくらいの自信はある。」
部下の敗因は油断から来たものだとヤツは分析している。奴ら固有の能力を使えば負けることはないと豪語している。その能力の正体とは何なのか? 思い返してみてもそんな能力はなかったような……いや、待てよ? 何か謎な現象があったのだとすれば、アレはどうだ?
レース序盤でグレートが死角から強襲を受けたあの出来事。あの能力の正体は未だに判明していない。……? そんなことを考えているうちに魔王は目の前から姿を消していた。それに気付いたと同時に俺の口に何かが入ってきた!
「むぐっ!?」
「どうかね? これは私からのプレゼントだ。美味しくいただいてくれたまえ。そこの皿にあった肉料理だよ。」
「むっ!?」
背後から声がした! 振り向いて見ると、魔王が背後にいるではないか! それに口の中に入れられたのは何らかの料理であることは間違いなさそうだった。肉の味がする。近くのテーブルに置いてあるローストビーフだろう。それを一瞬の内に口へと放り込まれ、背後へ回った。一体何が起きたんだ? ただ高速で動いたならこんな穏やかに済むはずがない。もっと乱雑な状態になるだろうし、衝撃波も発生するはずだ。正直、見当がつかない現象だ!
「通称”ナイト・フォーク”。これが私の能力だ。わからなかっただろう? 見切れなかっただろう? それが君の限界だ。これがある限り鶏でさえ、私を倒すことは出来ないのさ。力ではなく能力を以て制す。それが私のやり方だ。」
そんな捨て台詞を残して、魔王はこの場を去っていった。現れたときも突然だったが、消えるときも同様だった。最後は転移魔法でも使ったのだろう。さっきのように妙な瞬間移動とは違って、今度はどこにもいない。気配すら消失してしまっている。一体何だったんだ? これは挑戦状のつもりだったのか、災いによる死の宣告だったのか、定かではない……。




