第208話 豚じゃないよ、ビッグだよ。
「こういう機会ですからちょいと話でもしませんか?」
「はへ? あ、あんたは!?」
目の前でけものモフモフ騒動が繰り広げられる中、誰が俺に話しかけて来たのかと思えばMr.ピッグ(※正格にはビッグ)ことクレメンスだった。俺と? 特に会話すら交わしたことのない俺に何の用があるというのだろう? その前にこの人、俺を勇者として認識してないのでは? 開会式の時も普通に一般人みたいに突っ込みをいれられたしな?
「勇者であるあなたと話をしておきたいんですよ。」
「あれ? やっぱり俺を勇者として認識してる?」
「当然じゃないですか。」
「じゃあ、開会式の時のやり取りは?」
「事を荒立てないためですよ。勇者がいるとわかれば、レースどころの話ではなくなりますからね。」
事を荒立てないためか。確かに勇者がいるとわかればちょっとした騒ぎになる。追われている身でもあるのでレースにエントリーしたときも身分を隠していた。それでも額冠の力でバレてしまうときもあるが、観客たちには気付かれていないようだった。サヨちゃんの見解によると、何か別に熱中しているものがあると認識されない時があるらしい。ここの場合はレースの熱狂で誤魔化しきれていたようだ。
「実はですね、この場にあなたの知り合いを一人連れてくる予定だったんですが、彼に断られてしまったのですよ。」
「え? 誰を?」
「一応、彼の性格に配慮しておきたいので名前は伏せておきます。」
「なんだよ! それじゃ誰が来るんだったのかわからないじゃないか?」
「名前は告げられませんが、会えば必ず驚かれるはずですよ。というかレース中に何か不可解な出来事はありませんでしたか?」
「あったことはあったけど、どれの事なんかねぇ?」
「彼はそれらしい物的証拠を残して去ったはずです。私から言えるのはココまでです。これ以上言うと、以外とシャイな所のある彼に怒られてしまいますから。」
「?」
不可解な事を起こしつつ何か証拠になるものを残していった? もしかして、シジミちゃんを救った、あの”杭”の事か? となるとやっぱりアイツは生きていたのか? ピッグと知り合いとは思わなかったが、この場に連れてくる予定だったなんて。まあでも以外と”シャイ”という点は頷ける。
あんなふてぶてしいキャラのアイツが「実は生きてました」なんて開けっ広げに登場する姿は想像できないしな。俺たちを庇い、華々しく散っていった姿を見せつけてのだから、生きていたと知られては立つ瀬がないとでも思っているのだろう。来てないんならしょうがない。
「でも……なんで? アイツはどう足掻いても脱出できない状況だったはず?」
「本当にそうだったのでしょうか? あなたという宿敵を見て何か思うところがあったのではないでしょうか? 現にレース中もあなたに気配すら悟られずに助けに来たのは……そこが関係していると思われるのですが? ちょっと話しすぎましたね。彼に怒られてしまうかも。」
あの処刑空間から脱出するのは不可能だろう。アイツは魔術師じゃないから魔法を使えるわけじゃないし……。とはいえ、あのバ・ゴーンも密かに脱出してきた事を考慮すると、二人は何らかの方法で同時に脱出してきた可能性はあるのかも? それとピッグの言うように”俺を見て”という言葉というから連想されるのは……あの技を発動させたとしか考えられないのだ。
「もしかして異空跋渉……?」
「私は存じませんが、そういうことなんでしょうね? あなたと剣を交えた末に見出だした技術と解釈出来ましょう。彼も一か八かで試した結果、生還できたのです。」
可能性があるとすればそれだ。”勇気の共有”を発動させたからこそ可能になったと。しかし、あの最高峰の天破奥義をトレースされてしまうとは……。物凄い実力者だとは思っていたが、ここまでの力を引き出す相手によく勝てたもんだなと、我ながら思う。どちらの武器も砕け散る程の死闘だったワケだし、負けていてもおかしくない戦いだった。
「そうそう! 彼からの伝言を伝えなければいけません。」
「アイツから? 何を?」
「今後の事についてです。とうとう神殿騎士団が動きを見せ始めたので警戒せよ、と申しておりました。」
「異端審問会ではなく?」
「もちろん、そちらも警戒した方が良いに決まってますが、それ以上に危険なのは彼らです。なんだろうな、こんなことを言ってしまうと怒られてしまうのですが、あなたにとっての最大の敵に成りうるということです。」
そもそも俺は教団に目をつけられバ・ゴーン率いる異端審問会に捕まってしまったのだ。それに所属するブレンダンですら急性に思えるほどの動きで俺を捕縛しに来たのはとある理由があったからだと、護送される途中でアイツから聞かされた。
俺から額冠を奪い取るのが裏の目的であり、俺を処刑するというのは表向きな理由を取り繕うためであったと。他にバ・ゴーンはある組織の動きを警戒して、彼らに先んじる形であのような強行手段を用いたのだとされている。そう、あの神殿騎士団に先を越されない為にである!




