第206話 予定は押してますが、レースは終了しました。
「うぇーい!! 優勝だぁ!!」
「キノ君のお手柄だぁ! 今夜は祝賀会パーティーだね! いっぱい食べるぞぉ!!」
「お前にしてはよくやった、キノ。」
日が暮れ始めた頃、波乱を極めたレースがようやく終結した。優勝はイツキ達のチーム。終盤の騒動に巻き込まれる事もなく、キノだけの独走状態となり順当な結果に終わったのだ。
二位だったトニヤが俺たちに襲いかかった結果……シジミちゃんの怒りを買い、返り討ちにされフルボッコの後、再起不能に陥った。あとはもうグダグダだったんだよなぁ……。
「同率二位か。締まらん結果に終わったのう。」
「せめて、サヨちゃんのとこがリタイヤしてなければ、キノと争えたんじゃないか?」
あの戦闘の後、俺はトニヤまで担いで走る羽目にあった。気を失っているのを放置してレースを続けるワケにもいかなかったのでやむ無くである。そんな状態でもシジミちゃんは俺から降りようとしなかったため、二人も担いで走る事になった……。
しかもタニシが途中でぶっ倒れたのでもう一人増えたのは言うまでもない……。それでもなんとか運営に掛け合い、同率二位ということにしてもらった。後腐れないようにしておきたかったのだ。どっちにもめんどくさいヤツがいるしな。
「怪我人を放っておけんからのう。それに妾達は優勝を狙っていたわけではないわい。あくまで弟子二人の鍛練のためじゃ。」
「サヨちゃんにしては勝ちにこだわってなかったんだな?」
「こういうときに勝ちよりも民を助ける事の重要性を学ばせたかったのじゃ。特にプリメーラめには勇者としての自覚を促したかったのじゃよ。」
サヨちゃんの弟子二人ならキノやトニヤと張り合えそうだったのにな? プリメーラのヤツは歯軋りするくらい悔しがっていたが、なんかイツキの治療で懐いたらしく以外とおとなしくしていたらしい。やっぱアイツはイケメンが近くにいれば機嫌が良くなる傾向にあるからな。ファルとかロッヒェンがいるときもそうだったし。
「しかし、あの電撃小僧がそなたに執着しておったとはのう。」
「そうなんだよ。アイツ、諦めが悪くってさぁ。俺が相手するつもりだったんだが、シジミちゃんの怒りを買ってしまってな……。」
「ほう? ワン公の姉か? そなたがとっちめたものと思っておったわい。」
「それがな……突然格闘技のオンパレードでアイツをぶっ壊したんだよ。もうビックリだ! でも、不思議と死んでなかったんだよな。」
終わってしばらくしたあと、当の本人は「怖かった~!」とかのたまってたけどな。あんたの方が怖いよ……。しかし、不思議とトニヤは重い怪我とか致命傷を負ってなかったんだよな。骨の一本や二本折れてるどころか頭が割れててもおかしくなかったのだが、全部セーフだったのだ。まさに「このとおり生きている!」状態だったのだ。
「なんでだろ? シジミちゃんが手加減したようにも見えなかったんだが?」
「それは”勇気の共有”が作用しておったからではないか?」
「え? でも、シジミちゃんと俺では戦闘スタイルがまるで違うんだが? それにシジミちゃんは実戦経験なんて皆無だったらしいし。(※喧嘩の経験は多数あったようです。タニシ談。)」
「そなたの精神性が影響したのじゃろう。”慈悲の精神”がな。」
「あんなフルボッコだったのに?」
素人とはいえ、あれだけ相手の体を痛め付けたのだ。あんなに食らったら普通死ぬ。それどころか途中で死んでるはず。2個目や3個目の時点で。それでもトニヤの体にダメージが少なかったのは”慈悲の精神”が作用していたからなのだろうか? でも、そうでないと説明がつかないのだ。
「良かったではないか。そなたであれば中途半端に手心を加えて、更に劣等感を煽っておったかもしれんぞ? そなた以外の者が徹底的に懲らしめてやったから、しばらくは手出しして来ぬじゃろう。そなたがゴールまで運んでやった恩もあるでのう。」
「うーん? 釈然としないがそういうことにしておこう。」
「それに銀色の仮面の娘も妾達に借りが出来た。容易には手を出しては来ぬ。もし、やって来るようなら妾が制裁を加えてやろう。」
借り? なにかと思って考えてみたら、プリメーラに治療してもらったんだっけ? 俺があの場にたどり着く前に槍で貫かれて重傷を負ってたって話だったよな。俺の知り合いに治してもらったんだから、恩を仇で返す真似はしないよね、とでも言いつけたのか知れない。アイツらもそこまで非情ではないと思いたい。
「さて、これから祝賀会でも開くとするか。そなたも疲れたであろう。」
「うん? でも祝賀会ってサヨちゃん達はリタイヤになっちゃったのに?」
「気にするでない。そなたの友人が優勝したのだからな。妾が祝ってやろう。懇親会も兼ねておる。レースの関係者も何人か招いておる。」
「誰を呼んだんだ?」
「クレメンスやアレキサンダーじゃよ。」
「えぇ? それって、大丈夫なの? 喧嘩になるかもしれんで?」
「妾がおればあやつらも表立って抗争など出来ぬであろう。そんなことをすれば妾の面目を潰すことになろうて。」
「さすが、女帝様や……。」
なんか祝賀会というか懇親会を主催してくれるようだ。参加者や運営の人間を一斉に集めたパーティーをするつもりらしい。参加者はそれぞれ険悪の仲な関係も多いのだが、それすらねじ伏せると豪語している。相変わらずの豪腕ぶりを発揮しているな。またまた波乱がありそうだが、ご厚意に甘えておくとするか……。




