第196話 バーストアウト!!
「なんだ? 急に人が変わった様になりおって……?」
対面しているスレイブも青年の変わりように戸惑いを見せている。理由はわからないが、あの青年を捕縛し何らかの尋問をしていた様にも見える。奴を倒さずに何故そんなことをする必要が……? 一体、何に興味を惹かれたのかはわからないが、その独特な武装であったりしたのかもしれない。確かに見たことがないような武器を持っているのも事実だ。
「藪を突いてみたら蛇が出た、というわけか? 良かろう。それだというならば力を見せてみよ。この状態から逃れられたらの話だがな?」
「ぐうっ! こんな物!!」
あの青年は複数体の電影から雷電の帯によって捕縛されている。雷によるダメージに加えて、動きを制限する能力を有する。その性質上、拘束や拷問に適した術であり、万全を期す為に周囲全体からの使用をしている。この状況ではよっぽどのことがない限りは脱出は不可能。他人の力を借りねば逃れる事は出来ないはず。自身で脱出などもっての外と言える。
「緊急脱出パターンNo.2、位相転移を適用!!」
「えっ!?」
青年は何か聞き慣れない単語を口にした途端、姿が喪失し雷電に似たエネルギーの塊と化した。これには流石に魔神といえども驚嘆のこえをもらさずにいられなかった。妾でさえもそうだ。
人がエネルギー体と変質するなどという事例など聞いたことがない。人の魂がその場に現出するというのはあり得るが、肉体その物を変えるなど出来るはずがないのだ! そのエネルギー体は雷電の捕縛をするりと抜け出し、離れたところで再び人の姿に戻った。
「なっ!? 貴様、一体何をした!? 何故私の捕縛から逃れられたんだ!!」
「エネルギーを受け流すにはエネルギー体になれば良いだけの話だ!」
逃れられた方法は不明だが、青年は実際に包囲網から脱出して見せたのだ。スレイブはこの状況を見て動揺を隠せないようだ。絶対的に自信を持っていた必勝の策が安易に破られてしまったからに他ならないだろう。
異常事態は悪魔であっても戦慄するのだ。特に他者に対して嘲り罵り、常に優位な立場を保って愉悦に浸っているからこそ、逆の立場に立たされたときに慌てふためくのだと言える。
「おのれ! とにかく逃れたからには覚悟してもらう!!」
「無駄だ。お前の攻撃は効かない。」
スレイブは再び雷電を発して青年を捕らえようとするが、何故か体には当たらずに彼のもつ武器に吸い寄せられるような動きを見せた。まるで避雷針の様に雷電が呼び寄せられ徐々にそのエネルギーも膨れ上がっていた。スレイブはその状況を見て焦り、更に力を込めて雷電を送り込むが逆効果だった。集められた雷電は際限なく大きくなっていく。
「馬鹿な! 私の電撃を吸収しているだと! 魔術も使えない様な魔力も乏しい人間相手などにィ!!」
「エネルギーである以上はこのスクリーマーの前では無力だ。この武器はお前達のような者に対抗するために生み出された必殺の武器なんだからな。」
「こんな武器なんて存在するわけがない! こんな大それた真似が出来る物なんて人間ごときに作れるはずがないんだ!!」
「その奢り侮りがお前達を滅びに向かわせるんだ。この電撃、その身で味わうがいい! バーストアウト!!」
(ドッッッッッ!!!!)
「ぎぁあああああっ!!!!!」
集められた雷電の力をどうするのかと思いきや……そのまま武器を利用してスレイブに撃ち返した! 反射以外の方法で魔術を収束させた上で放つなど前代未聞の事象だ! 魔術では再現不可能だ。精々、魔力を拡散させて威力を殺したり、狙い反らせて避けるという方法しかないのだ。反射でさえその威力は多少減衰してしまうというのに! 同じ属性の魔力で攻撃されたというのにスレイブの電影は一瞬でかき消される程の威力を示した。
「ううっ! なんとか助かったぜ。すまんな、ウィンダム!」
「これしきのこと、どうということもない。怪我をしたくなければ、俺から離れた場所にいるんだな。」
「アイツ……また、性格が変わってやがる……。」
一度に広範囲をなぎ払ったためかロアも拘束から解かれる結果になった。義手が貫かれ電撃を受けていたため回復までに時間がかかるとは思うが、これで少しは希望が見えてきた。それを慮ってか、青年はまだ前衛を張るつもりで仁王立ちしている。その変わりようにロアも驚きを隠せないようだ。やはり普段と人格が変貌してしまっているのは気になるのだろう。
「おのれ! 私を電撃によって退けるとは! なんたる屈辱! 勇者ロアよりも先に貴様を始末しなければいけなくなった!!」
「お前が俺を倒す? 違うな。俺がお前を倒すんだ。いや……抹殺するんだ!!」
ロアが拘束から解かれ希望が差してきたのは良いが、何やら不吉な雰囲気が漂ってきた。あの青年はあまりにも殺気だった気配を漂わせているのだ。まるで、この後全て自分一人だけで対処すると言わんばかりだ。その気概は明らかに勇者とはかけ離れている。あの者は勇者に憧れているとロアは話していたが、あまりにも危険な匂いがしている様に思えるのは妾の気のせいだろうか……?




