第186話 確かに倒したはずなのに……?
「倒した……。確かに倒したはずなのに……。」
「確かに倒したさ。しかし、倒したのは私の電影だよ。残念。」
掃除屋は魔神を倒したはずが背後から槍で貫かれていた。今まで見ていた魔神の姿は電影……奴の暗黒の雷を用いて作られた幻影だったようだ。妾とて見抜けなかった。あまりにも濃厚なダーク・フォースの展開により、奴自身の実像が不明瞭になっていたためだ。この効果は自身の闇術の効果を高める目的だけでなく、目眩まし目的で使用するとは思わなんだ。
「幻影なんかに惑わされるなんて……、」
「フフフ、惜しかったな。良い発想だったぞ。破壊の術式を至近距離で炸裂させる事に特化した武器、反射の魔術を展開するにはあまりにもピンポイントであるから防護しにくい。」
「幻影である事に気付いてさえいれば……、」
「気付いていれば? いいや、違う。当たらなければどうということはないのだよ。貴様には当てられない。」
(ドサッ!!!)
スレイブが槍を引き抜き掃除屋を無造作に地面へと投げ捨てた。掃除屋は死んではいないだろうが、この状況では回復してやることも出来ぬ。手が出せないことをわかった上で、敢えて殺さずに放置する選択を取ったのだろう。
手を差し伸べれば救えるかもしれない……そう思わせることでこちらに心理的揺さぶりをかけてきている。魔族は上級になればなるほど、悪辣な行いをするものだ。その様子をあざ笑い、愉悦とするのが悪魔どものやり方なのだ。
「ハハハ! 実力差は明らかなのにチョイと希望を持たせてやった結末がこれだ。愚かなものだよ。逃げるのが最善の策なのに。まあ、絶対に逃げさせはしないけど!」
「よくも、リンを!!!!!!!!」
「ほう? やっぱり生きていたか? まあ、挨拶代わりだったから手加減してやったからだけどね。」
スレイブに対して殴りかかったのは掃除屋の片割れ、金色の小僧だった。防護スーツは完全に破壊されたものの、命だけは無事だったようだ。しかし、手には武器すら持っておらず徒手空拳で殴りかかるのみだった。そんな攻撃が当たるはずもなく、相手には簡単にあしらわれている。掃除屋の時と同じ、あえて様子を見てあざ笑うためにそうしているのだ!
「ああっ! クソッ!!」
「当たらないねえ。倒せないねえ。どうしようもないねえ。」
「ヴィクシオン、やれ! コイツをぶった切ってやるんだ!!」
(ブゥン!!!)
「無駄だね。こんなデカ物の攻撃など喰らうものか。さっき喰らった時は幻影だったし、特別サービスだったんだよ。」
小僧はカラクリにも攻撃させるが成果が上がるはずもなかった。掃除屋と同じく近接用の術式デバイスがあったとしても、当たらなければ効果をなさない。その間嗾けた当人は何をしているのかと思いきや、長い筒型のデバイスを持ち出してきていた。敵チームを一掃しようとした時に使ったものではないか。カラクリを囮にして放とうというのだろうが、手痛いしっぺ返しを喰らう未来しか見えぬ。止めさせねば……、
「このアヴェリオン・バスターで消し飛ばしてやる!!」
「おおっと、これは危ない!」
「消えちまいな……、」
『トシコシダーーーーーーーっ!!!!!!!!』
(ズボボバボーーーーん!!!!!!!!!)
小僧が破壊の術式を放とうとした時、爆音とも言うべき音声が辺りに響き渡った! それは衝撃波を伴って遠距離から放たれたようで、スレイブだけはなく小僧、カラクリ諸共全て吹き飛ばしてしまった。誰が、と思って見てみたら例のふざけた猫のカラクリが犯人の様だった。そういえば、奴らもクレメンスめの陣営だった事を思い出した。
「ふぅーーっ! 間一髪だったでヤンしゅう!」
「かもしれないけど、トニヤまで一緒に吹き飛ばしちゃったよ?」
「これくらいしてやらないと、もっと大惨事になっていただろうね。」
「ああーーーっ!? スケベ犬がまだ生きてた!!」
そういえば忘れておった。あのワン公もあの陣営に従えさせられているのだったな。かなり後ろの方にいた割には早い到着といえる。どういう方法を使ったのかは気になるが、助かったことは事実。あのカラクリがどこまで役立つかわからんが、多少の時間稼ぎにはなってくれるだろう。掃除屋の娘の手当てをしなければ……、
「小娘、あの掃除屋に回復魔法をかけてやれ!」
「え? なんで? 敵じゃないの?」
「そんなことを言っている場合か! 命を落としそうな者を見捨てるわけにはいかぬじゃろうが!!」
「ハイハイ、わかりました……。」
プリメーラは渋々、妾の指示に従った。今はレース競技の真っ最中と反論したいのだろうが、今はそんなことを言っている場合ではない。悪魔との戦いを繰り広げているのだから力を合わせて立ち向かわなければいけないのだ。その辺り、この小娘はまだ自覚が出来ておらぬ。素質はいっちょ前にある割には精神的に未熟なのが残念な娘なのだ。だからこそ、手元に置いて鍛えてやっているのだが……、
「おやおや? 私が遊んでいる間に有象無象が参戦してきたか? まあ、誰が来ようが私に敵わぬ事は明白。さて、勇者が現れるまで、どれだけの者が生き残れるかな?」




