第102話 へへ、おやっさん、帰ってきたぜ!
「おやっさんはいるか? 俺が帰ってきたぜ!」
「おじさ~ん!! お知り合いが久しぶりに会いに来たよ!!」
翌日、イツキが昔お世話になったという”親方”に会いに行くことになった。そして、たまたまシジミちゃんの取引先とも一致していたので、昨日の食事会メンバーで訪れたのだ。イツキが頼ったり、シジミちゃんが仕事を依頼するくらいなのだから、相当な腕前の職人なのだろう。
「ああ、オガワさん! おはようございます。」
「おはよう、コレッタさん。親方はどこに?」
「社長は今、席を外しておりまして……、」
しばらくすると、メガネをかけたエルフ女性の社員が出てきて対応してくれたが、残念ながら親方は不在なようだ。社員からは当然社長と呼ばれているようだが、取引先や付き合いの長い人間からは通称”親方”と呼ばれているそうだ。
親方はドワーフで工場の中はてっきりドワーフ族が多いのかと思ったら、様々な人種がいるようだ。事務職はエルフ、作業員は獣人とかドワーフといった具合である。適材適所な人材登用で業績を着実にあげてきたのだと窺い知ることができた。通りで一番大きな工場になるわけだ。
「そういや……この時間はいつもロードワークに行ってたっけな……?」
「走り込みの体力トレーニング? 戦士とか兵隊でもないのに?」
「おやっさんはな、どんだけえらくなっても現場主義なのをずっと通していてな。職人の腕は優れた体力によって支えられているのだ、っていつも口癖みたいに言ってたんだぜ。」
「へー、職人も大変なんだな。重い工具とかを安定して使ったりするのに力はいりそうだもんな。」
いつも金属と向き合って仕事をしているんだから、それを切ったり、削ったり、磨いたりするのにも力が必要になるのだろう。だからこそ大抵の社員の体格がいいのだろう。中には小柄だったり、細い体の人もいるが、力の要ることとは別に繊細な作業もあるからなのかもしれない。大きなカラクリから小さな品物まで取り扱っているからこその分業スタイルなのだろう。
「現場仕事にこだわっているっていうのもあるが、職人を始める前はレスリング闘技をやっていたとも話してたな。」
「まさか、お前に体術を教えたのは……?」
「その通り。俺のレスリング技術の師匠でもある。暇があればいつも技を教えてもらってたってわけだ。」
「処刑隊の隊長代理を一撃KOしたほどの技だったからルーツが気になってた。これでスッキリした。」
猫人のジェイが使う格闘術とも異なる投げ技・組技主体だったから、俺からしたら結構珍しいものに感じた。梁山泊は基本的に打撃が主体なので組技系主体のものはあまり見たことがなかったのだ。
せいぜい遊牧民の間に伝わる格闘術や、極東の国の力士の技くらいだったしな。アレにしたって、組技と打撃の混合スタイルだった。打撃以外が主体の格闘術が存在すると思わなかったのだ。
「社長が戻ってくるまで、ただ待っていて頂くのもあれですので、工場の中をご案内しますね。」
「ええ、じゃあ、お願いします。」
親方はすぐに戻って来そうもないので、コレッタさんが工場を案内してくれることになった。どういう物を作っているのか気になっていたところだったので、ちょうど良かった。パッと見だけでは何を作っているのか、素人にはわからないからな。早速、案内されたところにあった物は……、
「これが当社で作製している商品です。こちらでは出来上がった物の最終調整が行われています。」
「おっ! これは義手・義足じゃないか! やっぱり完成品を見ないと何を作ってるのかわからないもんだな。」
なるほど。こういうところで義手・義足が作られているんだな。精密な作りであるためか組み上げ完成してからは綺麗な室内で調整の作業が行われているようだ。埃とか切りカスが混入しないように徹底されているようだ。高い品質はこういった環境の管理を徹底することで守られているのだろう。
「俺もここの作業に携わってた事もあるんだぜ? やっぱ見てると懐かしく思えてくるぜ。」
「おお! イツキじゃないか? やっぱお前、ここが恋しくなって戻ってきたんだろ?」
「ちげーよ! ちょっと懐かしんでただけだ! 今は立派にクロガネ団の副長をやってんだから、離れられねえんだよ。」
イツキがかつての職場の仲間にからかわれている。今のイツキからはそんな風には見えないが、黙々と静かに作業をこなしていた過去があったのだろう。そんな奴が今では魔王とつるんで、教団に対して反抗運動をしているのだから、人生どうなるのかわからないもんだな。俺にしたって、破門されて放浪してたら勇者の後継に選ばれたのである。だから、人の事は言えないか?
「フン! 随分と生意気な事を言うようになったもんだな? ちょいと揉んでやろうか?」
(ガッ!!)
急に気配もなくイツキの背後から声をかけてきた男がいた。イツキの身長が高いので顔とかは見えないが、やけにどっしりとした体型なのがわかる。男はイツキが振り向くまもなく一瞬の動きで簡単に羽交い締めにしてしまった! この掴み方はイツキ得意の投げ技と同じ型の物だとわかった。まさか、この人は……、




