第101話 敏腕若手経営者な姉
「タニシ君、どこ行ったんだろうね?」
「こんなおいしい料理が食べられないなんて、絶対損だよね?」
キョウナとセンベイが楽しそうに料理を食べながらタニシの身を案じている。アイツがいなくなった後に、姉のシジミちゃんと出会い、彼女の店の営業が終わってからみんなで食事に来たのである。イツキの一押しの店とシジミちゃんのお勧めの店が偶然一致したというのもあって、この店で大いに飲み食いしようということになったのだ。
「ほんと、もう、恥ずかしいわぁ。あの子ったら、私に会うのが嫌すぎるからって、すぐに逃げちゃうんだものね。」
「なんでアイツ、お姉ちゃんの事嫌ってんの?」
「どうせ、私に色々小言言われるのが嫌なんでしょうね。あの子の事を思って言ってあげてるのに。」
店の名物であるTの形をした骨の付いた牛肉ステーキや臓物の煮込みを食べながら、それとなくタニシ失踪の手掛かりを姉に探ってみた。会うのを嫌がっているのは認識している様だが、理由に関しては本当にそうなんだろうか、と思わざるを得なかった。
小言程度で逃げ出すとは思えないし……やっぱそれ以上の恐怖を姉から感じているように思える。この辺はあまり突っ込まないようにした方が良いかもしれない。とにかく二人を会わせないように動くとしよう。
「そういえば、聞きましたよ? お姉さんって会社を経営してるんですって?」
確か姉って、例のガツ森グループの経営を引き継いだんだっけ? メイちゃんがその話をしていたことを憶えている。あの変態マスターな叔父さん、タガメおじさんが不祥事で失脚したらしいので、乗っ取られたらしいな?
なんかそれ以降ガツ森は”男飯”一辺倒な経営方針を見直して、家族向けとか、女子受けのいい業態を展開していると聞いた。確かに行く先々でその片鱗は目にしてきたから本当なのだろう。見た目はただの可愛らしいコボルト娘なのだが、その実態は敏腕若手経営者というのがシジミちゃんの正体だったのだ。
「うん、まあね。それが家業みたいなもんだから。まだまだ、お父ちゃんやメダカおじいちゃんには敵わないけどね。ゆくゆくは私も同じくらいになりたいとは思ってるの。」
「すげーっ! さすがしゃっちょさん!! 言うことが違う!」
クロガネ団のメンバーもシジミちゃんには興味津々な様で、次から次へと質問を繰り出している。特にキョウナとキノは料理を食べるのもほどほどに会話に夢中になっている。そこで余った料理をセンベイが一掃する形になっている。
会話勢は色んな料理を少量ずつ食べることが出来るし、大食い勢は余ったのをたらふく食べることが出来るのだ。メンバー内でうまく需要と供給みたいなのが成り立っているのが凄いと思った。
「じゃあ、あの昼間にやってたお店って他でもやってるの?」
「アレは新規事業を始めるための、テストを兼ねた出店なのよ。これでいけると判断出来れば、聖都なりの大都市で出店を考えようと思ってるの。」
「いつかはアレが色んな所で食べれるようになるのかぁ……じゅる。」
「センベイ、ヨダレ、ヨダレ!」
昼間にやっていたのは、あの”アイスクリン”という食べ物のお店を開くためのテスト出店であったらしい。あの食べ物は色んな物を凍らせる必要があるらしいのだが、そのための設備・機材を開発依頼したのがこの町の工場であったらしい。
今まで学院などで食料保存の為に作られた設備はあったのだが、デカすぎなのがネックになっていたらしい。ここの技術力なら小型化出来ると踏んで開発依頼していたらしい。それが完成したのがつい最近であったらしく、今日はたまたま、その姿を俺達は目撃することになったのだ。
「それであなた達は一体どうしてここへ? ……ここで言えない理由は置いといてもいいけど。」
昼間に会ったときからなんとなく感じていたのだが、シジミちゃんはどうやら俺らが指名手配犯なのを知っている様だった。店の経営中は会話は避けるようにして、夜に食事をしながらにしようと、便宜を図ってくれたのだ。
町の連中にまで情報は行き渡っていないらしいがどこで聞き耳を立てているか、わからないので店の中で、となった。割と商人になりすました教団の諜報員が紛れ込んでいるらしいのだそうだ。
「ああ、それはな、俺が昔ここに住んでいたってのが大きいが、俺の相棒の武器の修理を依頼しに来たんだ。」
「そっちのリーダーさんのね? 滅多に壊れなさそうな、頑丈そうに見えるのにね? なんか変なモノ吹き付けられたみたいね?」
「割とご存じな様だな。アレはここで開発されたモノだとはわかっている。その除去方法もここに来ればわかるんじゃないかと思ってな。」
イツキが事情をシジミちゃんに説明している。俺も旅の途中で経緯は聞かされた。タンブルがブレンダンと戦ったときに”耐魔コーティング材”の原液を棍棒に吹き付けられてしまったのだそうだ。その後も付いたままだったので、水で洗ったり、拭いてみたりしたがほとんど落ちなかった。だから製造元に相談して汚れを落とそうという話になった。もちろん、理由はそれだけじゃない。
「問題はコレだ。この男の武器の正体を知っている人間がいないか探しに来たんだ。訳のわからないカラクリ機材といえば、この町だからな。」
「変わった見た目。私も見たことない……。」
例のウィンダムの武器である。様々な最新技術が開発されている、この町にならって事で職人達に見せてみようという話になった。うまくすれば、アイツの出自も判明するかもしれないのだ。逆にここでわからないのなら、お手上げと言うことになる。一か八か賭けてみることになったのだ。




