第十二章 休暇と博士とリゾート
「博士、会社から返事が来ました」
アユがスマホを掲げて直樹に見せた。
そこには「よくやった。都市部での実証は本社チームが対応する。現地観察を継続してくれ」と書かれていた。
「おお……やっと俺の出番は終わりか……」
直樹は胃を押さえながら、力なく椅子にもたれかかった。
アユはくすりと笑い、首を横に振った。
「でも博士、報告会まで数日あります。休暇にしましょう」
「休暇?」
「ええ。せっかくインドネシアにいるんですから。バリ島でも行きませんか?」
その提案に、村人たちが大盛り上がりになった。
「博士、バリだ!」
「博士、国の誇りを見てこい!」
ブディまで背中を叩いてくる。
「い、いや俺そんなリゾートとか似合わないし……」
直樹の弱々しい抵抗は、歓声にかき消された。
――
数日後、飛行機でバリ島へ。
海辺のリゾートホテルに着いた直樹は、場違い感に押し潰されそうだった。
白い砂浜、青い海、華やかな観光客。
「……俺、絶対浮いてるよな」
「大丈夫です。博士は“日本人博士”ですから」
アユがさらりと笑い飛ばす。
――
屋台で焼き魚を食べれば、直樹は辛さで涙目。
「かっ、かれぇ……!」
アユが冷静に「博士、インドネシア料理はこういうものです」と解説する。
お土産屋では、観光客に「あなたが例の博士?」と声をかけられ、直樹は慌てて逃げる。
「な、なんでここでもバレてんだよ!」
「新聞に写真が出ましたからね」アユが肩をすくめた。
――
夕暮れのビーチ。
人混みが少し落ち着き、波音だけが響いていた。
アユは小さく呟いた。
「博士が来て、村も……私も、少し変わりました」
直樹は返事に詰まり、赤く染まる水平線を見つめて誤魔化した。
「そ、そうか……」
波が寄せては返す音に、言葉はそれ以上続かなかった。




