周囲の現実
「最近夏凪さん学校に来ないよね」
「何かあったのかな?二年生になって夏凪さんと同じクラスって知った時は嬉しかったのに全然登校してこないんだもん」
「噂によるとお父さんがかなり大きな企業の社長でその会社で仕事をしたりしてるとか」
「ええ、そんなことあるぅ?でも、なんか夏凪さんのあの美人な顔だとそういうイメージ結構合うかも」
「次学校来た時話しかけてみようかな。もしかしたら友達になれたりして」
「あの人って結構かたいイメージあるしそれは難しいんじゃない?友達じゃないけど去年あの皇くんがプロポーズして断るような人だよ?」
「ふふっ、あの時ちょうど私現場にいたんだよね。皇くんかなりはでにプロポーズしたから、すごく目立ってた。でも夏凪さんすごく露骨に嫌そうな顔して断ってたからちょっとおもしろかったな」
「ああ、また夏凪さんのご尊顔を拝みたい!あの綺麗な声に聞きほれたい!」
「厄介なファンじゃん。キモイよ(笑)」
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最近あの子はめっきり部屋から出てこなくなってしまった。
二年生になってからは学校に行く日も少なくなったけどそれでも1日に一回は顔を合わせていたのに、いまでは学校には全く行かず部屋からも出ない。
今日も部屋の前に夕飯を置いておく。それは朝になるとなくなっているので食べてくれているみたいなのが救いだがどうしてしまったのか。
今思うと幼い時は感情表現が豊かで可愛らしい子だった。しかし小学生になってからは私たちが習い事や勉強を強制するようになってそれと同時に笑顔もなんならほかの感情を表に出すことも減ってしまった。
中学生を卒業するころにようやく自分たちの過ちに気が付いて、あの子には自由にやらせてあげるようになった。それでもあの子の笑顔を見ることはなくなってしまった。
そんなあの子が幼い時ぶりに私たちにお願いしてくることがあった。それはあの子が高校一年生の夏のころだった。新しいVRのゲームがやりたいと言ってきて久しぶりにわがままを言ってきてくれたのが嬉しくてついつい買ってしまった。
かなり高いものだったがお金は稼いでいるし、なによりあの子の笑顔がまた見れるならと買ってしまったのだ。
それが間違いだったのだろうか。あの子がそのゲームを始めてからは、部屋にこもることが増えてしまった。
そして六月の中頃だろうか。そのころからは完全に部屋から出てこなくなってしまったのだ。
ゲームをやめるように、それが無理ならもう少しでも部屋から出てくるように言いたいが以前の過ちを考えると一歩踏み出してあの子に干渉してしまうのが怖くなってしまう。
部屋から出ないほどなのだ。きっと例のゲームに熱中して楽しんでるに違いない。それを止めるのも楽しみを奪ってしまうのもはばかられてしまう。
私も夫ももうどうすればいいのかわからない。とりあえず灯花がどんなゲームをやっているのかもう少し詳しく調べてみよう。
夫とゲームのPVを見てみたり、公式のHPを見てみたりする。
そこで一つの文章を見つけてしまった。
――――――あなたの新しい人生――――――
このゲームを販売するのにあたってのうたい文句らしい。
それを見て私たちはもう手遅れだったのだと、私たちは最愛の娘になんと残酷なことをしてしまったのかと二人涙した。
 




