32話
起きて二人でギルドへ向かう。今日は森には行かないが家を探しに行くまで時間が有り余っているので訓練場に行くのだ。
食堂の方をチラと見るが野菜を齧っているキナ爺の姿はもう見ることができない。そんなことを考えているとまた涙が零れてしまいそうになるがグッと堪えて訓練場に行く。今まで自分にとって大切な人を失ったことはなかったし、なにより大切だと思える人なんていなかった。乗り越えたつもりだったがもう少しだけ引きずってしまいそうだ。
訓練を二人で行う。いつもよりお互い訓練にも熱が入っている。ハナビは弱い自分をやめて今度こそは大切な人を守れるように、ミヤは大切な人についていけるようにそしておいて行かれないように必死に訓練をする。
訓練を終えた後は風呂で汗を流してから朝食を食べる。昼食を済ませたら不動産屋に向かう。
不動産屋で家を買いたい旨を伝えるがどうやら家の販売はいまはしていないらしい。やっているのは賃貸のみらしい。というのもこの街は傭兵が多く、傭兵は家を買ってもその後すぐに森で消息を絶ってしまい、その家の所有について扱いに困ったりするらしい。そのうえ土地は領主のものであるので土地の販売もない。
ということで賃貸で良い家を探すことにした。二人で住める家で風呂やトイレの掃除のためにも教会の近くのほうがいいだろうか。まあまず個人の家で風呂があるところなど教会や領主邸近くの一等地の家くらいにしかないのだが。
いくつかの家を見て回っていい家を見つけた。家賃は月80万ギルだがそのくらいであれば当たり前に払える。風呂もトイレもしっかりしてるしキッチンもきれいだ。
結局その家に決めてその家に住むことに決めた。引っ越す前に家具も揃えなければなのでいい職人を教えてもらうためにカイラスのところへ行こう。
ギルドの中に入る。カイラスはいつも通り受付にいたが、いつもは酷く暇そうにしているのに今日は一人の少女に絡まれている。少女の隣にはもう一人、片方より少し年上っぽい少女がおどおどしている。
なんだか面倒そうなので端によって騒動が収まって少女二人が消えるのを待つとしよう。
「ねえ!なんで登録しちゃだめなの!」
「いや、だめってわけじゃねえが。この仕事はあぶねえよって話をしてんだよ。子供がお遊びでするもんじゃねえって話だ」
「お遊びじゃない!私は領主の娘なのよ!」
「なおさらじゃねえか。金持ちの嬢ちゃんの道楽だろ。それに傭兵ギルドは国家やらとは完全に独立した組織だからそんな脅しはきかねえよ」
「それに子供っていうけど、あの子はどうなのよ!見た感じ私とそんなに年も変わらなそうじゃない!この子と同じくらいじゃないの?」
と言って私の方を指さしてきた。うわ、面倒なやつに絡まれた。
「いや、あいつはなあ______ハナビ、ちょうどいいからこっち来い」
呼ばれたのでいやいやながら寄っていく。
「なに」
「おう、このお子様がよう。傭兵の危険も知らねえで、傭兵になって森に行きたいんだとよ」
「そんなの勝手に行かせればいいじゃん。死んでも自己責任なんだし」
「おいおい、一応これでも領主の娘なんだよ。ここの領主は貴族にしては珍しく子供によく関わる娘好きだからな。死んだらたぶん傭兵登録した俺の責任だ。首が飛んじまう」
「傭兵ギルドは独立した組織なんでしょ。だいじょぶ」
「そう簡単な話じゃねえんだよ。だから助けてくれよぉ」
「ねえ、あなたたち私を話に入れなさいよ!あなた今いくつよ。どうせそんな私と変わらず13歳くらいでしょ?」
「いや、17だから」
「え?うそ?・・・・・・嘘つかないでよね!そんなのありえないわ!」
「こいつは童顔だからな。仕方ねえがほんとに17らしいぞ」
なんだこいつらは甚だ失礼だ。
「おっ!いいこと思いついたぞ。ハナビ今防具が壊れてるせいで森の奥に行きづれえだろ?だからこの二人のお守りしてやってくれ」
「嫌だけど」
「じゃあ、よろしくな。てことで嬢ちゃん登録してやるからその代わり森にはこいつについていくようにしてくれ。そうすりゃ安心だからな」
「ふんっ、お守りってのは気に食わないけどそれで登録できるなら少しくらい譲歩してあげていいわ」
「勝手に決めないでよ」
カイラスに体よく面倒なことを押し付けられてしまった。こいつ許さない。
「では改めまして、よろしくお願いします。私はアイリーン・エイクリッド・ファン・アリスタです。そして隣にいるのがマリベルです」
「アイリーン様の従者のマリベルです。よろしくお願いします」
「はあ、しょうがない。わたしはハナビ。隣はミヤ」
「よろしくお願いします。ミヤです」
「まあ、明日からついて行ってあげるけど、森では私の指示に絶対従うこと。あなたたちの命を守るためにもね。それができなかったら即刻契約解除だから。よろしく」
「しょうがないですね。それでよろしいとします」
「ん。じゃあ一旦訓練場に来て、あなたたちがどれだけ戦えるのか知りたい」
「わかりました」「はい」
「ミヤはカイラスからいい家具を作れる職人さんとかを聞いといて。ミヤもこんのに付き合わせるわけにはいかないから、お守りが終わるまではしばらく森には別々に入ったほうがいいかもね」
「そうだね。寂しいけど、その間に私もハナビちゃんに追いつけるように頑張るから」
「ん、またあとで家具の調達には行こ」
ミヤと別れて訓練場に行く。
「二人はどんな武器が使えるの?」
「私は武器は扱えませんが、魔法は使えます。ですから十分戦力と考えてもらってよろしいですよ」
「私は神にお仕えする身でもありますので少し法術を。あとはこのメイスも持っております」
流石貴族と言うべきかどうやら魔法を使えるらしい。ここでいまだ足踏みしている魔法のヒントを得られるかもしれない。
「私、魔法はあまり詳しくないから実際どんなものなのか見せてほしいんだけど」
「ハナビさんは庶民ですからね。知らなくても仕方がないです。まあ、少しくらいなら見せて差し上げましょう」
そういうとアイリーンは目をつぶって手に持っていた短杖に手をかざした。
そうして数秒後杖の手前に小さな炎が起きた。数十秒かけてその炎はだんだんと大きくなっていく。そしてようやく拳ほどのサイズになったそれをフッと的に向かって飛ばして見せた。
アイリーンは汗をかいてハアハアと息を荒げているがそれに対して炎の当たった的は軽く焼け焦げているだけだ。
しょぼい。それに魔法を飛ばすまで一分以上かかっていたぞ。これは戦力にはならないな。
「へえ、これが魔法か。すごいね。どうやって発動させてるの」
「ふふんっ、そうでしょう?これは選ばれしもののみが使える力ですから。私の年齢でこれほどのものを使える人は他にはおりません。魔法を習っている大人でもなかなか難しいとお父様もおっしゃっていました。まあ、発動自体は起こしたい現象を強くイメージするだけですが、魔力を持つ選ばれしものしか使うことはできません」
はあ、思ったより簡単なことみたいだったな。イメージするだけとはこれなら簡単にできそうだ。
そしてこれで優秀らしいがそれは親ばからしい父親が適当におだてているだけなのか実際にそんなもんなのかどちらなのだろうか。
「マリベルの法術ってやつは?」
「は、はい!今お見せします」
するとマリベルはしゃがんで途端になにかつぶやき始めた。神官が使う神の奇跡とやらは祝詞を唱えるらしいのでそれだろう。長ったらしい祝詞を一分もかけて唱えると、マリベルの目の前に光り輝く矢のようなものが出てきて的に飛んでいった。
それは的を少し削って見せたが、準備に一分もかけて出す威力ではないだろう。こちらも戦力にはならない。マリベルはメイスを持っているが、この街にこもって平和ボケしたようなおどおどした少女が魔物相手にそれを振れるとは思わない。
「実力はわかった。今日は終わりでいい。あとは明日の朝また」
そうして二人と別れ、カイラスとミヤの元に戻った。
ミヤと合流してカイラスから紹介された家具職人の店をいくつか回る。
机や椅子、ベッドなど必要なものを注文する。できたら家の方に届けて中に搬入するように言っておいたので届いたら引っ越すとしよう。一週間後には引っ越しもできるはずだ。
海外の人から見ると日本人の顔はかなり若く見られるようにハナビは現地住民からすると年齢に反して容姿が若く幼いです。
日本人的感覚からすると少し可愛い寄りの美人みたいな顔立ちなのですが。
 




