↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
7/9

第7話

「2キル目」


 ヴィオラの機体が撃墜判定を受けた後、急激に機動が弱々しくなったノエル機を撃墜する。

 肉体的にも、精神的にももう打つ手がなかったのだろう。

 そのまま、速度を落とすことなく、機体を横倒しに、操縦桿を手前に引く。

 高速機動で空の風景が目まぐるしく移り変わり、体重の7倍もの重力が、俺の身体を押し込み、肉体が圧迫される。


 それすら愛おしい。

 地上の緩い重力も、人々の雑音もうんざりだ。

 この空に戻ってきて、ようやく理解した。リストニアやフェリペのどちらか、教師か軍人かではない。

 この空こそが俺のいるべき場所だ。


 彼女たちの腕は悪くなかった。指揮や状況判断能力の低さは否めないが、過敏によく動いた。

 これが訓練でなければ、どれほど良かっただろう。あの時の戦争のような、実戦の空であれば……。


 良かった? 良かったのか、あの戦争が?


 その時、視界の上部に残った1機であるレナの機体を捉えた。同じ速度帯で円弧を描きながら迫るので、俺からは流星のように見える。

 やはり、動きがいい。


「ターゲットを視認、撃墜する」


 空はいい。

 さっきのようなつまらない疑念を考え込む時間はないからだ。


 後方へ過ぎ去って行く彼女の機体は俺よりも速い。

 同じ機体を使っているなら、当然同じ性能であり、同じ速度までしか出ない。

 だとすると、乗り方だ。

 彼女はこの空で俺より乗り方が上手い。


 何度も続くターンファイトの中、彼女の機体がじわりじわりと小回りで上回ってくる。

 風に機体が煽られる。


 そうか、なるほど。レナという少女はそうやって乗っているのか。


 彼女の機体が手早く旋回を済ませ、俺の真正面にその機首を向ける。


 ◇


[ダックス2 レナ]


 これで――。

 目の前に、彼の機体が現れる。殆ど正面。

 軸を合わせきれず、HUDの機関砲の照準は僅かに届かない。でも、それでいい。


 次の行動は予測できる、彼は間近で迫る私を回避する。


 だが、彼は避けなかった。


 フルクラムの翼の先端同士がほんの10cm単位で掠め合う。

 コックピットの彼の姿、目までが見える。

 地上とはまるで違う、迷いのない目だ。


「くっ!」


 私の武器の一つ、急接近だ。

 相手に危険なまでに迫り、相手に回避を強要させ、体勢を崩し、こちらのペースに持ち込む。

 訓練前にも行った挑発もこれの一種だった。

 ――嫌がらせで、彼に挑発したわけでは無い。ただ『彼は軍から追い出された落ちこぼれではなく、本物のエース』という大人たちの立話を聞いてしまった。仲間たちに危害を加えさせない為、本気でねじ伏せようとして、今もそうしている。


 けれども、彼には通じない。何が本当に危機かを理解し、こけおどしはまるで通用しない。

 再度、仕切り直し。グローブの中の手はぐっしょりとしている。

 心拍数があがっているのは、緊張だけではなく、わずかな好奇心。

 慌てて首を横に振った。

 集中しないと。

 でも、私には大人には理解できない武器がある。

 機体が下から浮き上がる。山々の斜面を登った上向きの風だ。


 今だ!


 その風に合わせて、私は機体を飛び跳ねさせた。

 風にのって、フルクラムは何処までも登る、そして、誰よりも速くなる。

 燕のように降下し、速力エネルギーで彼を上回る。


 ようやく、雲海の上を飛ぶ彼の背後を取った。

 ぐんぐんと迫る。もう逃がさない。


「勝った」


 トリガーに指をかけ、引き金を引いた。

 ペイント弾が彼の機体に吸い込まれた。それを確信する直前、彼の機体が躍った。

 飛び上がるように機首を跳ね上げ、右に螺旋《ロール》を描いた。


「バレルロール!」


 カウンターを仕掛けて来たと気づいた時には、速度が乗りすぎ、機体が曲がらなかった。

 為すすべなく、私はまっすぐに彼の描く螺旋の中に吸い込まれ、押し出された。


 べたり。


 誰にも汚されなかった私の翼が、真っ赤に染まった。


「はぁはぁ……」

「3キル。全機撃墜、状況終了」


 彼の息一つ乱さない無機質な言葉が、無線機から伝わる。

 くやしさ、よりも空に残された彼の残したロールの残像から目が離せなかった。


「綺麗」


 ◇


 訓練飛行を終え、エプロンに駐機していると、先に降りていた彼女らがライナに説教されているのが見えた。

 特に、レナは危険行為をしたためか、追加で酷く叱られていた。


 俺は機体から降りると、そういう雑音から耳を背けるように足早に歩いた。

 途中、ヴィオラとノエルがばつの悪そうな顔をして突っ立っていたが、それも通り過ぎる。彼女らは鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。どうも、俺が何か言葉をかけると思っていたようだ。

 それはライナの仕事だ。俺は言われた通りに仕事をしたから、問題はない筈。


 それより、空で見たことに好奇心を抱いた。

 彼女らの機体、まずはヴィオラとノエルのコックピットを見る。燃料計の値は2人とも同じように、想定通りに減っている。

 そして、レナの機体は思った通りに燃料が余り過ぎている。2人よりも、俺よりも。


 そのことを確認して、俺は機体から降りると、そこにはレナが立っていた。

 彼女の肩は震え、顔は下を向いている。

 説教がそれほど恐ろしかったのだろうか。


「どうやら、お前は風にのれるらしいな。

 普通は飛ぶ上で邪魔にしかならない突風を味方につけ、それでより高く飛んでいる。

 今まで見たことが無い飛び方だ」


 ……何故、俺は彼女にこんな言葉をかけてしまったのか、壊れた心は自制心が効かないとしか言いようがない。

 しかし、それは思わぬ反応を呼んでしまった。

 彼女は顔を上げ、前のめりに自分の身体を寄せて、俺の手を勢いよく握った。


「そう、そうなの……!」


 見上げる彼女の瞳は涙で潤んでいた。


 しくじったな。

 ライナの言っていたレナの抱えている『問題』、『非公式な記録』、それと彼女の飛行技術は関係していたらしい。

 全く要らないあたりくじを引いてしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。