番外編1-1 少年Sは振り返る。
時系列は2章あたりの、本編とは直接関係のない番外編です。最終章がまだ書き終わっていないため、最終章までの穴埋めとしてこちらを提出します。
メインストーリーには深く関わっていないとある人物の過去編なので、読まなくても最終章への接続に問題ありません。メインの登場人物だとザックとゼノとシェリルが少しだけ出ます。
落ち葉が中庭を埋め尽くし、落日を早く感じる季節になった。ザックとゼノはというと、空き時間のほとんどを学園の図書室で過ごしていた。魔王復活や水晶値に関する新情報を得られないか、文献を片っ端から読み漁っていたのである。と言っても、ゼノは本を読むのが苦手なので、あまり戦力にはならなかったが。
ほとんど成果を得られないまま、無為に時間が過ぎ去っていく。しかし、冬を目前にしてやっと、新たな発見があった。それは、いつものように図書室で捜し物をしている最中のことだった。
「あれ?」
ゼノが唐突に驚いたような声を上げた。図書室なので、囁き声くらいの小さな声だったが、すぐ近くにいたザックには、ゼノの声を聞き取れた。
ちらと見ると、彼は卒業生のアルバムを見ていたようだった。
「何か手掛かりになる情報を見つけたか?」
「あぁいや、そういうわけじゃないんだけど」
声を潜めながら、ゼノはページの一部分を指差す。ザックが覗き込むと、ゼノが見ていたのがページの一面を飾る集合写真だということがわかる。
そしてゼノの指の先を見ると、胸に卒業のコサージュをつけた、凛々しい目つきの少年がそこにいた。外見だけでは人格を推し量ることはできないが、第一印象では真面目そうな人物だと感じた。白黒の写真では、彼の髪の色も目の色も分からないが、もしもザックが色を塗るなら栗色の髪と琥珀色の瞳にするだろう。そう直感的に思ったのは、その少年にとある少女の面影を見たからだ。そう思ったのは、ゼノも同じだったようだ。
「これ、オルコットの父親かな」とゼノが尋ねる。
「卒業年は今から25年前……。年齢的にはそうだとしてもおかしくはないな」
アルバムには卒業生の名前が書いてあった。居並ぶ名前の中にロバート・オルコットの名前を見つけた。確か現オルコット家の当主の名前がそうだった気がする。我らの同級生シェリル・オルコットは現当主の一人娘なので、ゼノの予想は当たっていそうだ。
「流石オルコット家。親子二代揃って王立生か」
一学年30人という狭い枠で、王立アンドレア魔法学園に入学する難易度は決して低いものだとは言えない。他の名門校よりも優れていると驕るつもりはないが、事実として入学倍率の高さについては他の追随を許さない。
オルコット家は歴史ある名家なので、伝統として、国内初の魔法学校である王立アンドレア魔法学園の卒業生であることが内外から求められるのかもしれない。
集合写真を眺めているうち、ふとあることに気付く。
「──にじゅうろく、にじゅうなな、にじゅうはち、とこれで29人。卒業生が一人足りないな」
入学定員は創立日から変わっていない。卒業の写真が30人には満たないということは、中退者か留年者がいたということになる。
いくら名門といえど、六年で卒業できなかった生徒だっているだろう、と思ってその人数差を深く考えなかった。しかし、ふと一つの懸念がザックの頭によぎった。学生のうちに「処分対象」になった生徒はどのように扱われるのか、ということである。
アンドレア魔法学園で、過去に処分対象になった生徒がいたかはザックたちには知ることができない。しかし、もしもそういう生徒がいたら、急に姿を消したら騒ぎになることは容易に想像がつく。もしかしたら「処分」の後付けの理由として、不自然な中退があるかもしれない。
その不自然な中退を調べたとしても第五水晶値の上昇や魔王の復活を食い止めることにはつながらないが、処分のタイミングについては見当がつきそうだ。
そうなると、過去の中退者を調べてみる価値はあるかもしれない。手始めに、ロバート・オルコットの代の中退者について情報が欲しいところだ。
卒業アルバムの序盤には入学式の写真があった。卒業時の写真と見比べてみると、確かに一人多い。
六年の歳月は人を大きく変える。ロバート・オルコットも卒業前の凜々しさは薄く、幼さが残る丸みのある輪郭をしていた。入学時と卒業前の写真を見比べて、中退者を探すのは苦労したが、おそらくこの人だろうという予測はついた。
「卒業できなかったのってこの人か」
学生名簿と照らし合わせてみると名前も分かった。まぁ顔や名前が分かったところで、新たに得られる情報などないのだが。知っている名前ではなかったし、たとえ顔見知りだとしても自分が生まれるよりも前の写真を見たところで今の人物像に紐づけられることの方が少ない。
と、写真を見る前はそう思っていたのだが、例の少年を見て他人とは思えないような既視感があった。
パッと見で誰、と判別できるほどではないが、飄々とした表情は自分の知己と接続されそうな予感がある。
ゼノは見覚えがないとのことだが、よっぽど毎日顔を突き合わせているレベルでない限りは、ゼノは「見覚えがない」と言いそうなほどに他人に対する興味関心が薄いので、ゼノの発言の信頼度は微妙だ。
知っているような、知らないような。見覚えがあるような、見覚えがないような。はっきりしない自分の記憶にもやもやする。
彼が生きていたら、四十代。彼が四十になったらどんな風貌になっているだろう。そう頭の中で少年の加齢を想像して──ピンとくるものがあった。
「……もしかして」
想像した人物を脳内に浮かべて、写真の中の少年と重ね合わせる。重ならない部分の方が多かったが、それでも顔のパーツは似通う部分がいくつかあった。
思いついたときはただの予感にすぎなかったが、今となってはザックの中でほとんど確信に近いものがあった。
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久しぶりに夢を見た。自分が王立アンドレア魔法学園の生徒だった時の夢だ。思えば、もう二十余年前になる。月日が経つのは本当に早い。
ここにきて、少し昔のことを振り返ってもいいのかもしれない。もう自分もいい年だ。前だけがむしゃらに走り続けていれば許されていた青年ではない。過去の苦汁を飲み下す時が来たのだと思えばいい。それは今の名前とは別の名前を使っていた時代のことだ。
当時の自分は今名乗っている名前を使っておらず、本名を使っていた。昔の名前を使わなくなった経緯と新しい名前を使い始めたきっかけについては、今は脇に置いておこう。一から辿りなおせば、いずれ思い出す苦い記憶だ。繰り返し反芻する必要はない。一旦、当時の本名については「S」として自分の人生を振り返っていくことにする。
次回更新は8/6(木)です。




