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勇者の数字  作者: 竹津りょう
第一章 ザック・ウィンターの憂鬱
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エピソード0


 終末の時、来たれり。

 世界を震撼させた恐怖の到来を、人々はそう記録した。


 「それ」は影が浮かび上がるように、突如として人間界に出現した。

 五体は人でありながら、渦巻く角を頭部に掲げ、黒い羽根を背中に生やし、肌には鱗が浮き出た異形。そして、その異形は魔物の大群を従えて、人間界を侵攻し、地上に住まう生きとし生きるものを淘汰させんと、残虐の限りを尽くした。魔物の特徴を持ち、魔物を率いる異形は、冠がないだけで魔物たちの中心的な存在であった。さればこそ、その災厄を魔物の王――魔王と呼ぶようになったのだろう。


 アンドレア王国に住まう国民の半数は魔王と彼が率いる魔物たちによって、無惨な死を遂げた。人類は圧倒的な戦力差に打ちひしがれ、魔物達に滅ぼされるのを待つだけだった。


 しかし、絶望にくじけず、立ち上がる青年がいた。それが、後に語り継がれることになる勇者レイモンドだ。

 彼は四人の仲間と共に、地上を跋扈する魔物を切り伏せ、多くの民を救った。そして、最後には魔王のと正面対決の末、魔王を討ちとった。しかし、勇者一行の奮闘をもってしても魔王の完全消滅は敵わなかった。

 魔王の肉体を切り伏せても、魂は残り、いずれ新たな肉体を得て、同じ惨劇を繰り返すだけだと判明したのだ。

 そこで勇者は自らを監視者として、魔王の魂と共に封印されることを選んだ。自らも魂だけの存在となることで、魔王が封印を破ろうとしないよう、近くで監視をすることにした。


 しかし、勇者の献身をもってしても、魔王が復活するまでの時間稼ぎにしかならない。勇者の魂は年月を経るごとに摩耗し、魔王を封じ込める力が弱くなっていく。封印はおよそ一千年後に解けるだろうと勇者一行の一員だった賢者アシュリーは未来予知の力を使って、国王に伝えた。

 惨禍の再来に備えるために、アシュリーはとある水晶を国王に授けた。国王が水晶に手を翳すと、五つの数字が霞のように浮かび上がる。


「この数字は国民の素質を計るものだ。この水晶を使って国を豊かにし、人員を揃え、魔王復活に備えて、万全の準備をするべし」と賢者は言った。


 国王がそれぞれの数字の意味を問うと、アシュリーは訥々と説明を始める。


 一つ目の数字は魔術の才能を示す。

 二つ目の数字は知力を示す。

 三つ目の数字は身体能力を示す。

 四つ目の数字は手先の器用さを示す。


 国王は水晶の導きの通り、国民に素質に合った職業を与えた。優秀な魔法使い、優秀な学者、優秀な兵士、優秀な職人が増え、たちまち国は豊かになった。

 しかし、五つ目の数字の意味を賢者が教えることはなかった。最後の数字はなんの職業の素質を示すのかと国王は問うたが、賢者はいつか分かる時が来るでしょうと頑なに答えることを拒んだ。


 とはいえ、民草は隠された秘密こそ、暴きたくなるもの。第五の数字はなんの素質を示すのかとしばしば討論の種になった。

 第五の数字の特徴は、殆どの者がゼロに近い数字しか持っていないということである。しかし、魔王が封印されてから、百年、二百年と年月が経てば経つほど、高い数値が出る者が多くなり、一千年も経てば多くの国民が二十に届くようになった。


 ある日のこと、どこかの学者が、四つの数字は勇者一行の仲間である、魔法使い、賢者、剣士、鍵師を象徴する才能を表しているのではないかと一つの説を提唱した。とすると、第五の数字は勇者の素質だと考えるのが自然だ。魔王復活の時期に近付けば近付くほど数値が上がりやすくなるのも納得である。


 真偽不明のその噂は、多くの口を渡っていくうち世間の常識となり、いつしか第五の数字が高い者は次代の勇者として、周囲から畏敬の眼差しを向けられるようになった。





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