第八話 清貧王子
貿易商の1件が、貴族の間で噂になっているらしい。
なんでも、あの第二王子は服の価値が分からない、とのこと。
運の悪いことに、王族主催の社交パーティが開かれる。
「まあ、いらっしゃいましたよ清貧王子。お国のために質素を貫いてくださってるんですって。」
扇で口元を隠した令嬢がくすくす笑う。
「あら、随分と頼りがいのある……ふふふ。」
僕はそんな声を気にせずに黙って歩く。
「貴女方、失礼ですよ!」
パティが今にも飛びかかりそうなのを宥める。
「パティ、いいんだよ。彼女達がそういうのも仕方ないじゃないか。」
「あら、侍女がなんの用かしら?身分を弁えなさい?あなたが意見していいと思っていらして?」
意地悪にくすくす笑い続ける貴族たち。仕方がないのだ。
「……これも修行のうちですね。」
軽く微笑んで立ち去ろうとした時、後ろから冷たく響く声が聞こえてきた。
「身分を弁えていないのはどちらかな?」
貴族達が慌てて振り返ると、ナディル兄さんが腕組みをして立っていた。
「殿下……!これはこれは、ご機嫌麗しゅう……」
貴族たちが慌てて擦り寄るも、兄さんは冷めた目で口角をくっと上げるばかり。
「ええ、皆様に置きましては楽しく過ごされているようで、主催の身としてはありがたいことですな。」
兄さんはかつかつと僕の方に歩み寄り、肩を抱いた。
「やあ、シド。楽しんでいるか?あそこに美味いミートローフがあったぜ。食いに行こう。」
兄さんは僕の肩をグイグイと押して貴族たちから離れさせた後、少し振り向いてぼそっとつぶやく。
「……カーティル子爵家、マットン男爵家ですね。覚えましたからね。」
後ろで貴族達が縮み上がっていたことを露知らず、僕はミートローフではなく隣の野菜のテリーヌに舌鼓を打った。
「……なあ、シド。お前は……いや、なんでもない。その服、自分で作ったのか?器用だよな。」
兄さんは少し、複雑そうに僕を眺めていた。
「ええ?ああ、ありがとう。魔法の練習にもなるんだ、刺繍とかさ。」
「え、刺繍って魔法でできるのか……?」
しまった。普通の人は出来ないのか?僕はやはり、ステータスが高いのか、考えたことがさらりと完成するのだ。
「え、ええ、少しね……。」
へらっと笑って誤魔化す僕に、兄さんはまた難しい表情を浮かべた。ただ、兄さんは最後まで僕を責めることは無かった。
「坊っちゃま!明日からお暇を頂けますか!?あのこまっしゃくれたお嬢様達に痛い目を……!!」
なおも鼻息の荒いパティを宥めるためには、ローストビーフ32枚と、おおぶりのロブスター、プディングが5個必要だった。
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