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第七話 煩悩

隣国から貿易商が来るらしい。


どうやら、装飾品や珍しい衣服を持ってくるのだとか。


パティや母上が、そわそわとしているのを微笑ましく見守る。


「パティ、貴方のその服、新しく仕立てるのはいかがかしら?」


「王妃様、そんな恐れ多い!おほほほほ!」


父上と兄さんは、どこか顔を強ばらせている。


「うーむ、また妙なタイミングできたな……。」


「しかし、ここで関係改善も見込めるのでは?足元を見られている様子なら、こちらも毅然と返さねば。」


僕は、特に参加するつもりはなかった。


愛用の袈裟(袈裟と言えど、布を巻き付けただけに過ぎないのだが)は、今の質で十分満足していた。


「何?シド、お前も参加だよ。」


兄さんは苦笑いして、僕の腕を引いて広間に連れていく。


いらないんだけどなぁ。


貿易商はどこか緊張した面持ちで商品を並べ始めた。


「このような時間を作って頂き恐悦至極にございます。我々が今回お持ちしたのは、我が国独自の製法で織られた『シルク』なるものでして─」


次々に広がる商品に、母上とパティはうっとりしていた。


「まあ、まあ!この生地こんなに滑らかなんて!これで殿下達の肌着を作ればとってもいい仕上がりになりそうですわ!」


「この漆黒の生地、ナディルの白い肌に映えそうだわ!こっちの真っ赤な織物はシドの上着にぴったり!」


女性陣がきゃあきゃあ言いながら布を眺める様子に、商人はほっと胸を撫で下ろす。


「奥様方、お目が高いことで!こちら、織り目が独特でして、肌触りも唯一無二となっております!陛下も是非……」


商人が父上と兄さんに目を向けた瞬間、顔が固まった。


「ほう、妻たちが言うのならば、いい生地なのだろう。


しかし、さぞかし高いのではないか?」


「遠いところから足を運んで頂いてありがとうございます。


母上もパティもあんなに喜んで……。


どうぞ、そちらの国の陛下にもよろしくお伝えください。」


バチバチとした空気に気圧され、よろめく商人。


「え、ええ、勿論ですとも!男性方にも、ご興味を持って頂けるような代物、持ってきておりますからご覧あれ!」


皮袋から大ぶりの宝石のような物を取り出す。


「こちら『魔石』の原石になります。魔物の核でして、我が国で研究を進めた結果、この魔石に魔力をストック出来ることが判明しまして!友好の証にこちらをお持ちしました!」


国王と王子の顔が緩んだのに勢い付いたのか、更に第2王子まで懐柔しようと迫る商人。


「やあやあ、珍しいお召し物ですな!まさかご自分で?


私も古今東西、色々な衣服を見てきましたが、やぁ素晴らしい!


布にご興味はおありですかな?」


いそいそとご機嫌に布を説明しだす商人を、片手で制する。


「あ、大丈夫。僕は1番安い布で十分だから。国産で事足りてるよ。」



ガーンと音が聞こえてきそうなほどショックを受ける商人。


「そ、そうなのですね……。大魔導師、杖を選ばずと言いますか……。


あ!殿下は魔法はお好きですかな?


こちらのアクセサリーは魔石をあしらっておりまして、


魔力を封じ込めることで更に強い力を引き出すことが─」


「魔力が尽きたことは今のところないからなぁ。」


パクパクと金魚のように口を開く商人。よっぽど驚いたのだろう。可哀想に。


「魔力が尽きたことが、ない……?」


周りがザワつく。そんなに驚くことなのだろうか?


「ははは、すまんな君。シドはこう……欲が薄い男なんだ。


安心してくれ、取引はしっかりさせてもらうよ。」


商人は魂が抜けたようにそろばんを弾いた。

読んでくださってありがとうございます!

楽しんで頂けたら幸いです!!

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