第十四話 門出
あれから8年が経った。
あっという間の8年だった。
カノンに魔法を学び、一通りの魔法は使えるようになった。
とはいえ、僕の意志の尊重で、攻撃魔法は習わずに、
風魔法の応用の裁縫、火魔法の応用の料理、水魔法と風魔法を取り合わせた洗濯……。
カノンからは、アミターナ様に見せたら抱腹絶倒するはずだとお墨付きをもらった。
アラルドは、僕の夢物語を鼻で笑いつつも、及第点だと評価していた。
……兄さんは23歳になり、本格的に政治の中核に入り込んでいた。
僕の話す保障や炊き出しの話も笑わずに聞いてくれて、実現するための法整備を整えてくれているらしい。
……一方、僕といえば。
「パティ、そんなに心配しなくても大丈夫だよ。」
「そんなこと言ったって坊っちゃま……。旅に出るなんて、心配で心配で……。」
ぶびーっと鼻をかんで、うるうると目を滲ませるパティは、僕の旅立ちを惜しんでいる。
僕は、あの時の街の様子を見て以来、出来ることは何か考えていた。
僕には政治は向いていない。
どうしても、大局を動かすための軽微な罪に目を瞑ることが出来なかった。
だから、直接手を差し伸べに行くことにした。
民と共に飢え、民と共に涙を流し、民のために祈る。
そして、救われたい人を救う。
王族が向かないのならば、僕が向いている方法で人を救いたいと望んだ。
「シド……。本当に行くんだな。」
父上が何か鞄のようなものを持って、支度を整えた僕の元に歩み寄る。
「父上。はい、僕に出来ることをして参ります。」
父上はそっと鞄を渡す。
「これはな、無限に収納出来る鞄だよ。
代々伝わる家宝の魔法具なんだが、使わないと勿体ないからな。」
「こんな貴重なものを、いいんですか?」
父上はふっと笑って僕を力強く抱きしめた。
「お前達ほど大切なものはない。
無事でいなさい。必ず、帰るように。」
パティが次々と鞄にものを詰め込む。
食材、薪、ナイフ、寂しくなった時の人形……。
「パティ、やめなさい……。食材は腐るだろう……?」
父上が苦笑しながら止めるが、パティは泣きながら乾物を詰め込み始めた。
父上がこほん、と咳払いをして母上を呼び寄せる。
「まあ、シド……。ほんのちっちゃい可愛い坊やだと思ってたのに……。」
母上は寂しそうに微笑んだ。しかし、毅然として、送り出すことに後悔はなさそうだった。
「シド、辛くなったら帰っておいでなさい。
私達はいつでもあなたの味方ですからね。」
兄さんが慌ただしく、肩の勲章を煩わしそうに剥ぎ取りながら現れる。
「やあ、シド!上手くやれよ!」
あまりにもあっさりとした言葉に拍子抜けした。
「はは、兄さんは相変わらずだね。」
「お前は心配いらないだろう?」
がしっと握手をして、馬に乗る。
「では、行ってまいります。」
合掌して頭を下げる。皆はキョトンとしていたが、兄さんだけが真似して頭を下げた。
新しい世界が、広がる。
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