第十三話 理想と現実
授業時間よりも30分早く教室へ駆け込むと、アラルドが驚いた様子で眉を上げた。
「おや、今日はやけに早いですな。
槍でも降るのかな?」
皮肉たっぷりに立ち上がり、わざとらしく窓を眺める。
「アラルド先生。ちょっと聞いて欲しくて。」
アラルドはゆったりと椅子に座り直し、向かい側の席を手のひらで指し示した。
促されるまま座り、メモ帳を取り出す。
「僕はこないだ、街に視察へ向かいました。」
「家出だと聞いてましたがね。」
僕はぐっと唾を飲み込み、改めてメモを開いて見せる。
「僕は、この国を変えたい!あの、あの貧しい人達を無くしたいんです!」
「……ほう。聞かせてもらいましょうか。」
「まず、飢えは敵です!無料の炊き出しをしましょう!」
「どこで?国民全員分ですか?何ヶ所に置きますか?
そこに人が集まって暴動が起きないといいですね。」
ぐぬぬとメモを捲る。
「まだありますよ!
収入に一定の基準を設けて、そこに達しない人達の衣食住を国で保障するんです!最低限の生活を民に!」
「財源はどうするんですかねぇ。税を上げる?貴族達に総スカン食らうでしょうな。」
爪の形を眺めながら淡々と答えるアラルドに少し怯む。
アラルドは机に頬杖をついて、子供をあやすような顔でこちらに目を向ける。
「殿下。思想は立派です。
今までと比べ物にならないほど、国民のことを考えているようですね。
政治を教えた甲斐があったと言うものです。」
細い指で眉間をかいて、ため息をつく。
「しかし、それを今までの王が考えなかったとでも?
理想は理想。実現出来るかはまた違う問題なのですよ。
炊き出しも保障も結構。
ですが、そうすると国民は働かなくなりませんか?
国民という血液が動かなければ、国は死んだも同然です。」
アラルドは時計を見て、授業の時間が過ぎているのに気づき立ち上がる。
「さあ、貴方がしたいことは?
過去の失敗から学びましょう。
では、教科書の178ページを開いて。」
僕はぐっと唇を噛み締めた。
無力。僕は中途半端だ。
僕が自分を救おうとすれば、民を救えず。
民を救おうとしても、力が及ばない。
悔しさに俯いていると、アラルドが近づいてきた。
「前を向きなさい。
地面に答えが書いてありましたか?
前に進みたいなら、前を向くのが合理的だ。」
アラルドの言葉に僕は、鉛筆を握りしめた。
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