第十二話 一欠片のパン
老人が去った後、パンを見つめていた。
手のひらに乗るだけのパン。一口で食べれてしまう大きさ。
でも、このパンがあれば老人は明日も過ごせたかもしれない。
僕は自分のした事の重みをじわじわと感じていた。
「……帰ろう。」
自分への教訓として、パンは食べることにした。
一気に口に運ぶのは勿体ない気がして、少しずつ齧る。
なんだかモサモサしていて、牛乳が欲しいなと思ってしまう自分を恥じた。
今までの苦行はファッションだったのだ。
庶民の服を真似て、豪華な食事を減らし、天蓋のついたベッドを拒否していた。
自分はなんて、恥ずかしいんだろう。
パンを食べながらポロポロと涙が零れた。
パンくずまで食べ終わると、ボウルを抱えて大通りに向かう。
大通りにあと一歩で出るというところで、後ろから誰かに腕を引かれた。
「!?」
首筋にナイフが突きつけられ、口を塞がれる。
「よぉよぉ、お前、お忍びか?けったいな匂いぷんぷん撒き散らしやがってよぉ。」
3人組の男が、僕を捕らえた。
「坊ちゃん、そのボウル、純銀だな?腕切り落とされたくなったら大人しく寄越しなァ!」
……魔法で制することもできる。
でもそうすると3人を怪我させるかもしれない。
躊躇う僕の手からボウルが引き離されそうになる。
その時、
「シド!!」
馬がかける音が聞こえて、急に体が宙に落ちる。
「シドを守れ!そこの盗賊は捕らえろ!」
兄さんが、的確な指示を騎士団に送る。
騎士団は手早く盗賊達を縄で捕らえた。
「シド、大丈夫か!?怪我は?ああ、なんだってこんな所でそんな格好を!」
兄さんが心配そうに顔をぺたぺたと触る。
「パティが、お前がいないって騒いでるから城中大騒ぎさ!さあ、帰ろう。」
兄さんは僕から盗賊を隠すように上着を頭にかけた。
「兄さん、ごめん……。ねえ、あの人達はどうなるの?」
兄さんは冷たい顔で盗賊を振り返り、言葉を吐き捨てた。
「そりゃ、投獄して死罪か終身刑じゃないか?
王族に手をかけるのは大罪だ。」
死罪!?
「兄さん、僕が悪いんだ!僕が価値も知らないでボウルを持ち出したから!」
兄さんは僕を安心させるように微笑んだ。
「大丈夫だ、落ち着け。お前はいい子だよ。
しかしな、法律は絶対だ。お前のせいじゃないよ。」
上着の上から僕をぎゅっと抱きしめて、馬を急がせる。
少し振り返ると、先程の3人組が膝をつかされて騎士数名に囲まれている。
……僕のせいだ。
僕が変なことをしなければ、あの人たちは裁かれなかったのに。
欲を誘発してしまったのではないか?
何も出来ないばかりか、人を堕落させてしまった。
「……。」
黙り込む僕を見て、何を勘違いしたのか、兄さんはくしゃっと笑って見せた。
「なーに、パティには一緒に謝りに行こう!な?
大丈夫だよ、パティだって心配してただけだから。」
実際、帰った後大目玉を喰らい、数ヶ月はパティが腕を離さなかった。
読んでくださってありがとうございます!
楽しんで頂けたら幸いです!!




