第十一話 托鉢
父上に諭されて、しばらく考えていた。
王族とはなんなのか。
結局のところ、僕には難しかった。
ある意味、僕の目指すところは利己的の極みである。
「……自己犠牲、か。」
勿論、王族でも徳を積むことはできる。
父上がしていることは間違いなく、世のため人のためになることだ。
しかし、そこに至るまでに通過せねばならない点は、
煩悩に値しないのだろうか。
絨毯の上に腰を下ろし、伸びをする。
「……一度、初心に戻るか。」
僕は魔法で、庶民の服装を作り、着用した。
そして調理場からボウルを引っ掴んで
こっそり街へ降りた。
あまり顔が綺麗だと疑われるかもしれないと頬を汚す。
「……はは、意外と簡単なものだな。」
僕は初めて降りた街に目が眩んだ。
喧々諤々、大通りには馬車ならぬ竜車が走り回り、僕と同じ人間、獣人に……あれはハーフなのか?
とにかく異種族が混じり活気のある街中に笑みが零れる。
「おい、ボウズ!邪魔だよどきな!」
ふくよかな女性がががなり声を上げてパンの入った箱を振り回す。
「そこの!買う気ないならどけ!商売の邪魔なんだよ!」
トカゲのような顔をした男が、店先から顔を出して手を振って追い払おうとする。
「すみません、すみません!」
勢いに押され、僕は隅の方に追いやられてしまった。
「参ったな……。ここの細道でいいかな。」
僕は持ってきたボウルを胸の前に抱え、立ち止まった。
托鉢。本来はご飯を恵んでもらい、飢えを凌いで感謝の心と謙虚さを育む修行。
基本的に、お礼は言わない。募金とは違って、喜捨する側も感謝の心を持って手を合わせる。
しばらく立っていると、子供が近づいてきてキョトンと見上げる。
「ねえ、お兄ちゃんは大道芸人?お金入れたら何かしてくれるの?」
嬉しそうに銅貨を入れるが、何も言わない僕に痺れを切らして銅貨を回収して帰ってしまった。
次に来たのは裕福そうな男性。
「ん?物乞いか?ふふん、今機嫌がいいからな、恵んでやろう。」
胸ポケットから分厚い財布を出して、札束を入れる。
「……ん?おい、礼はないのか?ちっ、これだから嫌なんだ。」
男性は、札束をボウルが落ちるほど強く掴み、不愉快そうに帰っていった。
何時間経ったのか、足の感覚が薄れるほど立っていると、細い路地の奥からフラフラと老人が歩いてきた。
ガリガリにやせ衰えていて、目の焦点があっていない。
ぶつぶつと呟きながらどこか虚ろな目で歩いてくる。
ふと立ち止まり、僕の方をじっと見る。
(……なんだ?)
しばらく立ち止まった後、薄汚れたズボンのポケットから小銭を出して、またよろよろと大通りに向かう。
(……なんだ、大通りで買い物をしたかっただけか。)
彼のような貧しい人にこそ、救いは必要じゃないか。
もし托鉢で何かもらえたら、彼にも分けてあげよう。
そんなことを考えながら、またしばらく時間が経つ。
老人が大通りからフラフラと帰ってきた。
そのまま通り過ぎるのかと思って身を引くと、僕の前で立ち止まる。
「……お前、食べるものがないのか?」
はっと顔を上げると、老人は僕に一欠片のパンを差し出していた。
「……すまなんだ、俺の有り金で買えるのはこんなに小さなパンだった。
明日があるか分からない俺が食うよりは、若いお前が食った方がいいだろう。
明日も生きなさい。」
老人は震える手でなおもパンを差し出している。
「いえ、そんなつもりでは……。」
僕が受け取らないでいるのを見ると、遠慮していると思ったのか、老人はボウルの中にパンを入れた。
「遠慮しなくていい。俺は、俺はどこかで何か食べるよ。
はは、腹の強さには自信があるのさ。」
ボサボサの眉の向こうから覗く優しい眼差しに、胸が傷んだ。
僕は何を勘違いしていたのだろう。
僕は、何か成果があれば彼にあげようとした。
でも彼は何も無いのに僕に恵もうとしている。
「あの……!」
僕が声をかける前に老人は路地の奥に消えてしまった。
たった一欠片のパンがやけに重く感じる。
どうしたものかとそのパンを見つめた。
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