第十話 王族の矜恃
庭園をのんびりと一人で歩いていた。
薔薇が咲いたと聞いて、なんとなく匂いが気になったのだ。
庭園の真ん中にある東屋まで来た時、陛下への謁見で来たのか、有力貴族達がざわざわと話していた。
「いやしかし、兄のナディル殿下は素晴らしいが、弟のシド殿下はなんなのだ?」
くすくすと気怠げに話す。
「全くだ。清貧王子とはよく言ったもので、ほとんど乞食と変わるまいよ。」
すっと身を引いた。顔を見られれば気まずくなるだろう。
パティがいなくて良かった。
流石に王族お付の侍女といえど、あのレベルの貴族達に刃向かったとなれば処分は免れなかっただろう。
「もしかすると、わざとなのでは?」
貴族の一人が嘲るように吐き捨てた。
周りの貴族もくすくすと同調するように扇を振ったり頷いたりしている。
「ああ、そうすると確かに、辻褄が合うな。
はは、もしかするとシド殿下は不義の子なのでは?」
「そうすると、王妃も面白くないだろうなぁ。
王妃の機嫌取りで、陛下がシド殿下を蔑ろにしているのかもな。」
体が勝手に動いていた。
初めての感覚で、これが怒るということなんだと理解した頃には、彼らの前に姿を現していた。
「つっ……!シド殿下……!?」
貴族達がたじろぐ。
後ろの方に控えていた数人は、自分は関係ないというように苦笑いを浮かべ場を去ろうとする。
「待て。誰が帰っていいと言った?」
空気が冷える。誰も動けない。
「僕は、僕を侮辱されても構わない。王族としての振る舞いを望まないのは僕の意志だからだ。」
風が強い。僕は無意識に、あの魔法を使おうと手を合わせる。
「だが、父上を馬鹿にするのは違うだろ!」
気迫に飲まれ、何人か後ずさる。しかし、その場に縫い合わされたように腰を抜かすばかり。
「『釈迦パワー』……」
「シド、何をしているのかね?」
後ろから肩を捕まれ、はっと振り向く。
僕の肩を掴んでいたのは、父上であった。その後ろに、息を切らすアラルドの姿もあった。
「父上!こいつらが……!」
父上は厳しい顔で、僕を睨んでいる。
ふと顔を厳かに和らげ、貴族達に告げる。
「皆の者、息子が迷惑をかけた。
すまないが、今日のところはお引き取り頂こう。」
貴族達はそそくさと城の方へ戻って行った。
「父上!何故ですか、あいつらは国王を侮辱して……!」
父上はコツンと僕の頭を打った。
「シド。彼らはこの国を支える大臣達だ。
お前が手をあげていい人物達ではないよ。」
父上はゼェゼェと息を切らすアラルドを振り返り、また顔を戻した。
「アラルドが知らせてくれたんだ。
お前が庭園で大変なことをしていると。
感謝しなさい。」
「でも父上……!」
アラルドが大きく咳き込んで、ぎろりと睨む。
「親子水入らずのところ恐縮だが、殿下。
本当に貴方は俺の授業を─」
父上がさっと手を上げると、アラルドは不服そうに庭園を後にした。
「シド。国王とは、何千、何万もの民の命を預かっているのだ。
ただの私欲、ただの感情で判断してはならない。
絶対に、だ。」
そう言うと、厳しい顔をふっと緩ませた。
「まあ、父の為に怒ってくれたのだろう?
父親としては誇らしいぞ。」
父上はぽんぽんと肩を叩いて踵を返した。
僕は、その背中に王族の矜恃を見た。
読んでくださってありがとうございます!
楽しんで頂けたら幸いです!!




